研究課題/領域番号 |
17K19270
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
辻本 壽 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 教授 (50183075)
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研究分担者 |
児玉 基一朗 鳥取大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00183343)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 共生菌 / コムギ / カモジグサ / 異種染色体添加系統 / ストレス耐性 |
研究実績の概要 |
エピクロエ・エンドファイト(以下エンドファイト)は植物との共生菌であり、その共生が宿主である植物のストレス耐性を強化させる。コムギの近縁種野生種においてエンドファイトは普通に存在するが、栽培種であるパンコムギにはエンドファイトが見られない。野生種のエンドファイトを強制的に感染させると、パンコムギは極矮性になり、出穂しても不稔になる。 本研究は、①エンドファイトと共生できるコムギの遺伝子型を、野生植物の染色体を保有するパンコムギ実験系統の中から見出すこと、②コムギ近縁野生種から単離したエンドファイトの中からパンコムギと感染できる遺伝子型をもつ菌系統を見出すこと、この宿主および寄主両面の多様性の中から、感染しても異常の発生しない組み合わせを見つけることを目的とする。 宿主側としては、研究代表者がもつ、様々なコムギ近縁野生種の染色体を導入した異種染色体添加パンコムギ系統のストックを用いる。一方で、エンドファイトは、研究協力機関であるニュージーランドの研究機関AgResearchがもつエンドファイトのストックおよび国内の探索により得られる新規エンドファイトを用いて進めるものである。 研究手法は、様々な組み合わせで強制的にコムギ系統に感染させ、感染の有無をエンドファイトの染色および抗エンドファイト抗体を用いた免疫染色により調査し、かつ、植物の生育、稔性を調査する。一方で、特別な施設がなくても研究できる宿主・寄主共生系を確立するために、鳥取近隣および北海道に自生するコムギ近縁野生種を調査し、その種子および植物体を収集して、これからサンプルからのエンドファイトの分離を試みる。また、SSRマーカーにより、エンドファイトの種類、系統関係、および毒素産生に関与する遺伝子の有無を調査する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、エピクロエ(Epichloe)・エンドファイト(以下、エンドファイト)によるコムギのストレス耐性強化技術開発の第一段階として、エンドファイトに感染できるコムギ系統を見いだすことである。そのために次の2つの実験を行った。 1.異種染色体添加パンコムギ系統への強制感染:異種染色体添加系統(80系統)に、3種類のエンドファイトを強制感染させ、特定の宿主がエンドファイトに感染しても矮性等の形態異常を示さないことを見いだした。感染は茎葉のアニリンブルー染色での菌糸の確認および抗エンドファイト抗体を用いた免疫染色法で行った。感染した植物は、特に生育異常を示すことなくまた稔性があり、自殖により種子を得ることができたが、種子の充実が悪く、しわ種子であった。また、しわ種子から得た次代植物がエンドファイトを保有していることが確かめられた。 2.新規エンドファイトの探索:鳥取大学及び乾燥地研究センター・砂丘周辺地域に分布するカモジグサ(Elymus tsukushiensis)、ハマニンニク(Leymus mollis)等のイネ科雑草の葉組織および種子から、エンドファイト候補株を分離した。コロニーおよび胞子形態観察、また、rDNA ITS領域のシーケンス解析により同定を行った結果、牧草において害虫抵抗性、耐乾性等を付与することが知られているEpichloe属エンドファイトを多数分離することができた。また、2017年10月に北海道において、L. mollis及びElymus属植物のフィールド調査と種子収集及びエンドファイト分離を遂行した。その結果、道央・道東の海浜地域や山岳地域において、植物体・種子サンプルを多数採集し、エンドファイトを分離した。分離菌株は、イネ科雑草エンドファイト・コレクションとして、保存し、感染植物の害虫抵抗性などストレス耐性との関与について検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
エンドファイトとの共生関係が成立し、かつ生育異常が見られなかった異種染色体添加系統の次代種子を増殖し、その伝達の安定性を調査する。また、この系統と正常系統を交配し、異種染色体が感染時のみに必要なのか、共生関係を維持するために必要なのかを明らかにする。有用エンドファイト候補株のさらなる取得のため、国内のイネ科雑草からのEpichloe属エンドファイトの分離を継続して行う。特に、海浜地域等に分布し、耐乾性・耐塩性など各種ストレス耐性を有することが知られているハマニンニクに着目し、エンドファイト分離を試みる。 これら国内コムギ近縁種から単離できたEpichloe属エンドファイトは、rDNA ITS領域に加え、β-tubulin遺伝子およびelongation factor遺伝子の一部領域をシーケンシングし、種名を同定する。また、SSRマーカーにより、ニュージーランドおよび中国など外国産Epichloe属菌との系統関係を明らかにする。さらに、エンドファイトが植物内で生産する生理活性物質であり、動物に毒性を示すロリトレムBやエルゴバリン、昆虫に毒性や忌避作用を示すロリン、ペラミンなどをLC-MS解析により検出し、エンドファイト候補株の動物毒性および耐虫性など有用形質を検討する。これら二次代謝産物生産に関しては、その生合成遺伝子クラスター保有の有無を、シーケンス解析により調査する。 これら解析を通して、宿主植物に有用形質を賦与すると考えられる日本産エンドファイト候補株が決定できれば、異種染色体添加コムギ系統に人工接種し、共生関係の成立の有無を調査するとともに、エンドファイト保有コムギ系等の各種ストレス耐性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度に残が出た理由は、消耗品について在庫があり、それを利用したためである。研究が計画以上に進んでおり、30年度は感染した植物のストレス耐性を行うが、そのための試薬、また感染している植物の遺伝子発現解析の調査に、当初計画以上の消耗品費が必要であるため、29年度予定額を翌年に繰り越した。
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