研究課題
青枯病菌OE1-1株のゲノム解析の結果から、センサーカイネースをコードしていると推定された44個遺伝子のうち、QS シグナル3-hydroxymyristate(3-OH MAME)の受容センサーカイネースをコードするとされているphcS遺伝子とともに、vsrA遺伝子とRSc1351遺伝子が、QSに関わることが明らかとなった。さらに、レスポンスレギュレータ遺伝子欠損株のスクリーニングから、phcQ遺伝子とRSc0671遺伝子がQSに関与すると考えられた。そこで、3-OH MAME産生能欠損株、phcS遺伝子欠損株とともに、vsrA遺伝子欠損株、RSc1351遺伝子欠損株、phcQ遺伝子欠損株およびRSc0672遺伝子欠損株のトランスクリプトーム解析を、RNA-Seq法にて行い、QSの起動に関わるシグナル伝達系を推察した。さらに、QSにより産生が誘導される産物について、omics解析を行い、ラルフラノン化合物とEPS Iが、QSにより機能化する転写制御因子PhcAの機能化をフィードバック制御するとともに、レクチンLecMが菌体外に分泌された3-OH MAMEの安定化に関わることを明らかにした。3-OH MAME産生能欠損株とラルフラノン産生能欠損株は、細胞間隙から導管への侵入することができず、病原力を失った。一方、主要な菌体外多糖EPS I産生能欠損株とlecM遺伝子変異株は、細胞間隙から導管へ侵入することができたが、病原力を示すことはなかった。これら本年度の成果から、青枯病菌のQS起動に関わるシグナル伝達系の全貌が明らかになった。さらに、QSとそれにより産生が誘導されるラルフラノンが導管への侵入能と病原性に関わる機能分化に関与することとともに、LecMとEPS Iが、導管への侵入後の病原性への可塑性をプライミングする機構に関わることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の研究計画は、「QSシグナル受容とQSに関わる2成分制御系の道程と機構解明」と「QSにより制御される遺伝子発現系の解明」であったが、QS起動に関わるシグナル伝達系とそれらの遺伝子発現系の全貌を明らかにすることができた。さらに、QSとラルフラノンが導管への侵入能と病原性に関わる機能分化に関与するとともに、LecMとEPS Iが、導管への侵入後の病原性への可塑性をプライミングすることを明らかにし、それぞれの産生能欠損株と親株であるOE1-1株のトランスクリプトーム解析の結果を基に、QS、ラルフラノン、LecMおよびEPS Iが発現に関与するライブラリーを構築することができ、平成30年度の研究を遂行できる準備が整った。
平成29年度の研究成果を基に、「QS によるプライミング機構の解明」を目標に、まず、「プライミングライブラリーの構築」を行う。すなわち、マッシュルーム型バイオフィルム(mBF)から離脱した遊離細胞において、Phc ライブラリー遺伝子の中で、QS 起動時と同様に発現が制御されるライブラリー(プライミング候補ライブラリー)を構築する。プライミング候補ライブラリー各遺伝子の欠損株の導管への移行能と病原性を解析する。それらの株のmBF 形成能を解析する。根から接種した場合には、導管への移行と病原性に関与し、mBF形成と導管へ直接接種した場合の病原性に関与しないプライミングライブラリーとする。本ライブラリーを用いて、「プライミングライブラリー遺伝子の発現の時系列解析」を行う。すなわち、mBF 形成過程での、プライミングライブラリー遺伝子それぞれの発現を時系列的に解析する。以上の結果を総括して、「プライミングライブラリー遺伝子の発現の制御ネットワークの解明」を行う。レスポンスレギュレーター組み換えタンパク質とPhcA 組み換えタンパク質を用い、ゲルシフトアッセイにより、プライミングライブラリー各遺伝子のプロモーターの制御機構を明らかにする。さらに、プライミングライブラリー各遺伝子の欠損株のトランスクリプトーム解析を行い、QS を介したプライミングライブラリー遺伝子の制御ネットワークを解明する。
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