研究課題
植物の花粉成熟過程において、葯のタペート細胞のプログラム細胞死(PCD)が決定的に重要であり、その不全は不稔を誘導し、農業上も重要な問題となる。タペート細胞内のオートファジー動態の可視化実験系を構築に成功した。タペート細胞死過程において、オートファジーは転写因子により制御されること、またこの過程でタペート細胞内に時期特異的に活性酸素種(ROS)が蓄積すること、ROS蓄積も転写因子によって制御されている可能性が示された。葯で発現するROS生成酵素の欠損変異体の表現型の解析の結果、積極的ROS生成がイネの花粉発達・花粉壁形成に重要であり、タペートPCDやオートファジーの誘導に重要な役割を果たす可能性が示唆された。オートファジー欠損変異体、ROS生成酵素欠損変異体の葯のトランスクリプトーム解析も進めた。ごく低頻度で稔実したオートファジー欠損変異体種子は、白濁し、くず米様の形態を示した。走査・透過電子顕微鏡解析の結果、白濁化の原因は、胚乳周縁部における澱粉粒の微細化であることが判明した。糖・澱粉など代謝産物の比較解析から、澱粉蓄積量が低下する一方、スクロースやグルコース等の可溶性糖は増加していた。また、澱粉の中間分解産物であるマルトースも有意に増加していた。種子のプロテオーム・イムノブロット解析の結果、胚乳の澱粉分解酵素であるα-アミラーゼ酵素群が、コントロールと比べてオートファジー欠損変異体種子では顕著に増加しており、胚乳代謝の異常が確認された。一方、オートファジー欠損変異体では、高温ストレスマーカー遺伝子の発現が上昇しており、高温登熟等、環境ストレスによる白濁種子と類似していることを見出した。種子登熟過程の環境ストレス応答にオートファジーが重要な役割を果たす可能性が考えられた。
3: やや遅れている
登熟期の環境ストレスによる種子品質低下におけるオートファジーの役割の検証・解明に関する研究は順調に進めることができた。一方で、2017年度まで同一研究室内で密接に連携しながら共同研究を行っていた研究分担者及び研究協力者が、2018年4月にそれぞれ別々の研究機関に異動したため、研究環境の整備や研究に必要な形質転換体の作成に、予想以上の時間を要すこととなり、その部分の研究がやや遅延した。研究体制は整備されつつあり、近い将来に研究目標を達成できると期待される。
出穂・開花期のストレスによるタペート細胞不全・稔性低下におけるオートファジーの役割の検証、新規オートファジー活性化技術の開発については、実験系の構築に時間を要したが、花粉成熟期、種子登熟期におけるオートファジーの役割の解明に基づいて、オートファジー制御による稔性・品質低下の克服への指針を得ることができると期待される。
2017年度まで同一研究室内で密接に連携しながら共同研究を行っていた研究分担者及び研究協力者が、2018年4月にそれぞれ別々の研究機関に異動したため、研究環境の整備や研究に必要な形質転換体の作成に、予想以上の時間を要すこととなり、研究が遅延した。研究期間を延長し、2019年度に追加実験を行うことにより研究を完了できる見込であり、その段階で、研究成果を学会や論文で発表することを計画しているため。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件) 学会発表 (92件) (うち国際学会 5件、 招待講演 9件) 産業財産権 (1件)
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