研究課題/領域番号 |
17K19278
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
吉積 毅 高崎健康福祉大学, 農学部, 教授 (80342872)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 巨大DNA / 遺伝子送達 / 葉緑体 / ペプチド / 形質転換 / ゲノム |
研究実績の概要 |
本研究課題では、巨大遺伝子を葉緑体に導入する技術の開発を目的とする。この目的に向かって本年度は以下の課題を設定した。 1)葉緑体ゲノムを組み換えるための準巨大プラスミドの作成 枯草菌と大腸菌のシャトルベクターであるpLSBAC101’(80 kbp)に、葉緑体ゲノムに組込みに必要な相同配列と、GFPとスペクチノマイシン耐性遺伝子が融合したレポーター遺伝子を挿入する計画を設定していた。pLSBAC101’はサイズが大きいため、ユニークな制限酵素配列がない。そのため、枯草菌内で相同組換えにより、これら配列を挿入した。平成30年度は、上記の配列を組み込むためのコンストラクトを作製した。このコンストラクトをpLSBAC101’を保有する枯草菌に導入し、葉緑体で機能する配列を組み込んだpLSBAC101’CpSpGFP (約90 kbp)を作成した。 2) pLSBAC101’CpSpGFPのタバコ葉緑体への導入 pLSBAC101’CpSpGFP(以降、準巨大プラスミドとする)をペプチドを用いてタバコ葉緑体に導入した。プラスミド導入後、選抜に必要な薬剤を含まない培地で5日生育させたタバコからゲノムを抽出し、PCRを用いた解析を行った。その結果、葉緑体の標的領域に準巨大プラスミドを挿入することに成功した。コントロールとして制限酵素で切断した準巨大プラスミドを導入したタバコからは、組換えを示すPCR断片は増幅されなかった。これら結果は、ペプチドが準巨大プラスミドを物理的せん断から保護し、葉緑体ゲノムに送達していることを示す。現在は、この準巨大プラスミドを導入したタバコ外植片をスペクチノマイシンを含む培地上で選抜することで、安定的形質転換体の作出を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
pLSBAC101’に目的の配列(葉緑体ゲノムの一部と相同の配列、葉緑体で機能するレポーター融合型薬剤耐性遺伝子、枯草菌の選抜に必要な抗生物質耐性遺伝子)を組込むためのコンストラクト作りに時間を費やした。目標とする準巨大プラスミド(pLSBAC101’CpSpGFP)を枯草菌内で作成するためには、上記配列に加えてpLSBAC101’と相同な一組の配列も必要になる。このように複雑な構造のコンストラクトであること、かつサイズが大きいこと(ベクター含めて13 kbpとなる)が問題となって作成が困難であった。しかし、このコンストラクトの作成が完了し、30年度中にタバコへの導入に成功した。準巨大プラスミドのタバコ葉緑体ゲノムへの組込は、PCRを用いた一過的評価系により確認した。これまでに用いていた通常のプラスミド(10 kbp以下を指す)と比較して、導入効率が非常に低かったため検出に時間を要したことも、研究が遅れた理由の一つとして挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
H31年では準巨大プラスミドを葉緑体に導入した安定的タバコ形質転換体の作成を行う。定量的なPCRは行っていないが、同じ領域に挿入した10 kbp程度のいわゆる通常サイズのプラスミドと比較すると、組換えPCR断片の増幅は著しく低い。導入効率の低さを補うために、安定的な形質転換体を得るには大量のタバコ外植片に遺伝子導入を行う必要がある。そのため本年度は準巨大プラスミドを葉緑体に導入した安定的タバコを集中して作成する。 加えて、90 kbp枯草菌ゲノムにクローニングされたイネ葉緑体ゲノムをpLSBAC101’に移し換える。イネ葉緑体を格納したpLSBAC101’Cpは約215 kbpとなり、巨大DNAと定義できる大きさとなる。この巨大プラスミドをタバコ葉緑体へ導入し、PCRによる一過的な解析により挿入を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29およびH30年度に予定していた遺伝子人工合成にかかる費用がH31年度にずれ込んだため次年度使用額が生じた。遺伝子の人工合成に加えて、本研究に必要な備品などを前職場である理化学研究所から移設するための費用として次年度の予算を使用する予定である。
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