研究課題
本研究の目的は、原発周辺水域において魚類のケージ試験を行い、放射性セシウム(Cs)濃度の高い試験魚を人為的に生み出す野外実験系を確立するとともに、当試験魚等を用いた飼育試験など、積極的アプローチにより魚類のCs汚染メカニズムの解明に挑むことである。研究初年度となる平成29年度は、原発周辺の貯水池に生息する魚類のCs濃度の解明に努めるとともに、予備的に行ったケージ試験の試料を分析し、当試験の有効性を検討した。具体的には、帰還困難区域に位置する貯水池において刺し網等を用いた魚類の採集調査を行い、原発周辺の貯水池では、依然としてCs-137濃度が数千~1万ベクレル/kg以上の魚類(コイ、フナ類、オオクチバス等)が多数存在することを明らかにした。また、原発周辺の貯水池において非汚染のコイ幼魚を収容するケージ試験(1m×1m×0.5mのケージを6個設置、10個体/ケージ)により得られた試料の分析を行った結果、コイのCs-137濃度が、冬季の2か月間で最大数十ベクレル/kgに上昇することを明らかにした。これらの濃度は環境水のCs-137濃度(数ベクレル/L)よりも高く、環境水からのCsの取り込みに加えて底質周辺の餌などを介したCsの取り込みが寄与している可能性が考えられた。以上のようにケージ試験の有効性が示された。ただし、供試魚のCs濃度は貯水池に生息する魚類よりも低く、今後、代謝が活発となる春季~夏季に、より長期的な試験を行う必要があると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は、原発周辺の貯水池に生息する魚類のCs濃度を明らかにするとともに、非汚染の魚類を用いたケージ試験の有効性を示した。また、飼育試験で必要となる淡水魚(ウグイ養殖魚)および海水魚(ヌマガレイ天然魚)を入手し、これらを室内の閉鎖循環システムで飼育する手法も確立した。以上のように、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
今後、魚類の代謝が活発となる時期に、長期的なケージ試験を行い、Cs取り込みの経路やCs濃度の推移について明らかにする。また、Cs濃度の高い魚類の筋肉試料をもとにCs含有の配合餌料を作成して淡水魚・海水魚への給餌試験を行うとともに、貯水池から採集した環境水等を用いた飼育試験を行い、餌・環境水の両面からのCs取り込みの寄与についてそれぞれ明らかにする。
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