底生魚類について30 年間以上に亘って同一手法で継続調査し、そのデータが現存する東京湾をモデル海域として、海底コアの環境DNAに基づく漁業資源変遷史の復元法を開発することを目的とした。貧酸素水塊である湾奥部から湾口部にかけて、小型底曳網漁船による魚類の採集(20地点)、採水(10地点)、採泥(3地点)の3つの調査を実施した。採集された魚類は形態学的特徴に基づいて分類し、海水および各堆積層の海底泥はDNAの抽出を行った。抽出したDNAは魚類を対象としたユニバーサルプライマーMiFishを用いて増幅し、既知のデータベースと比較することにより網羅的な魚類相解析を行った。その結果、夏季と秋季による水試料からはそれぞれ約30、90 分類群の環境DNA が検出された。1977-2017年(1996-2001、2014年を除く)に亘る34年間の小型底曳網漁船による試験漁獲で得られた魚類相と比較したところ、環境DNA による魚類相推定による検出分類群数は試験底曳き調査に比べて多く、カタクチイワシやサッパなどの浮魚類、ハゼ類やカサゴなどの岩礁域に生息する種も網羅的に検出された。一方で、試験底曳きで多獲されたアカエイやツバクロエイなどの軟骨魚類に対する環境DNA の検出力は低いことが明らかとなった。検出された環境DNA の分類群ごとのリード数と漁獲個体数・重量の間には、有意な相関は認められなかった。海底コアの泥試料からは、表層から少なくとも約40 cm層までは魚類の環境DNAが検出され、東京湾の海底泥の堆積速度を考慮すると、環境DNAが長期間保存される可能性が示唆された。今後は、出現種の生態・生理学的特性との関連などを詳細に調べることにより、環境DNA の検出限界や精度、応用の可能性について検討していく必要がある。
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