研究課題/領域番号 |
17K19289
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 伸一 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (50270723)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 湖沼 / 深水層 / 微生物群集組成 / 微生物ループ / 細菌 / 原生生物 / 鞭毛虫 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、琵琶湖(滋賀県)、田沢湖(秋田県)、池田湖(鹿児島県)において、細菌の現存量及び群集組成について調べた。 琵琶湖において、16S rRNA 遺伝子アンプリコンシーケンスにより、表水層と深水層の細菌群集の比較を行った。その結果、両層を通じてBacteroidetesとActinobacteriaが優占した。深水層では、これに加えてChloroflexiやPlanctomycetes門の細菌も優占した。次世代シーケンサーを用いた原生生物群集解析の結果、ほぼ年間を通じて、深水層では渦鞭毛植物門(Dinophyta)が優占的であった。CARD-FISH法による特定原生生物グループの現存量の季節動態を検討した結果、細菌摂食者であるキネトプラスチド鞭毛虫は、水温成層期間中、深水層において現存量が高くなった。 田沢湖の湖心部において水深5、50、100、200、400mからそれぞれ試水を採取した。田沢湖の細菌細胞密度は、1ミリリットル湖水当たり5万から18万細胞と、他の湖沼に比べてかなり低かった。また、ピコシアノバクテリアが多く観察された。515F-806Rプライマーを用いた16S アンプリコンシーケンスにより細菌群集組成を決定した結果、水深200mまではシアノバクテリアが第一優占系統であった。一方、従属栄養細菌の細菌群集組成は、これまでに知られている他の大水深淡水湖の系統とは大きく異なった。また、水深400mでは他の湖では検出されない古細菌Thaumarchaeota門のSAGMCG-1系統が優占していた。 池田湖においては、湖心部において水深5、50、100、150、200mからそれぞれ試水を採取した。池田湖の細菌数は1ミリリットル湖水当たり44万から146万細胞であった。池田湖の細菌群集組成については、現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
琵琶湖については、我々の研究グループがすでに効率的な調査体制を有していることから、継続的にデータが取れている。一方、田沢湖については、本研究のために急ごしらえの調査体制を組んだが、仙北市、田沢湖クニマス未来館および現地企業である藤原重機興業株式会社のご協力を得ることができ、今後についても問題無く調査できる体制を構築できたことは大変良いことであった。池田湖については、以前から鹿児島大学農学部の研究者にご協力をいただける体制はあったが、平成29年度は我々独自で調査を行った。その結果、我々だけでも問題無く調査ができる体制を構築できたので、今後の効率良い調査研究体制の確立に成功した。 細菌および原生生物の現存量測定については、我々の研究室で平素利用しているDAPI法が、琵琶湖以外の湖沼でも有効であることが確認できた。また、これら微生物の群集組成解析については、琵琶湖については順調に進捗している。田沢湖については、細菌群集組成の解析は順調に進捗しており、原生生物の群集組成解析の結果が待たれる。 池田湖については、昨年11月末に調査とサンプル採集を終えたばかりであるにもかかわらず、ショットガンメタゲノム法を用いる分析が進んでいる。現在、いくつかの水深から、1kbp以上のコンティグが数万本、10 kbp以上のコンティグが数千本得られている。 平成30年度は、琵琶湖において、鞭毛虫による細菌に対する摂食圧を定量的に測定するが、平成29年度はすでに予備実験を実行した。また、特定原生生物グループを特異的に検出するCARD-FISHプローブもすでに開発済みであり、かつこれらの実用性についてすでに試行を行った。その結果、少なくとも琵琶湖については、我々が開発したCARD-FISHプローブは有効であることが確認された。平成30年度は、これらのCARD-FISHプローブを、他の湖沼でも適用する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、上記の湖沼以外に、北海道の支笏湖と倶多楽湖の調査も計画していた。しかし、悪天候のために船が出航できなかった。平成30年度は、これら2湖沼の調査を行うとともに、中禅寺湖(栃木県)、西湖(山梨県)の調査も行いたいと考えている。さらに、平成29年度に調査を実施した湖沼についても、分析が上手く行かなかったサンプルの再採集やデータの再現性確認など、可能な限り調査を行いたい。平成29年度に調査を実施した湖沼については、まだ鞭毛虫とピコシアノバクテリアの解析が終わっていないため、平成30年度はこれら微生物の分析・解析を急ぐ。池田湖の細菌群集組成については、ショットガンメタゲノム法を用いた。先述の通り、試水を採集したそれぞれの水深から、1kbp以上および10 kbp以上のコンティグがそれぞれ十分な本数得られたので、ゲノムのbinningや遺伝子のアノテーション等の分析を今後実施する。 また、鞭毛虫による細菌に対する摂食圧を定量的に測定する。これについては、琵琶湖から採取した湖水を適当なフィルターでろ過して細菌より大きい粒子を取り除き、そのろ液をさらに細菌を捕集できるフィルターでろ過して細菌をフィルター上に集め、そのフィルターをひっくり返して蒸留水で洗い流すことにより、琵琶湖の細菌を濃縮・集積する。このようにして集められた細菌をDTAFなど適当な蛍光色素で染色することにより、細菌疑似餌を作成する。平成30年度は、このようにして作成した疑似餌を用いて、原生生物による細菌に対する摂食圧の測定を行う予定である。 また、CARD-FISH法を応用したダブル・ハイブリダイゼーション法、すなわち摂食者(原生生物)と被食者(細菌)を、同時に一つのスライド上で検鏡する手法により、どの原生生物グループがどの細菌系統を摂食しているかを明らかにしたい。
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備考 |
二国間共同研究、チェコとの共同研究
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