研究課題/領域番号 |
17K19290
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
豊原 治彦 京都大学, 農学研究科, 准教授 (90183079)
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研究分担者 |
前川 真吾 京都大学, 情報学研究科, 助教 (30467401)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | ディスカス / ディスカスミルク / 哺育因子 |
研究実績の概要 |
本年度は、ディスカスの親魚の粘液に含まれる仔魚期の生残を優位にする哺育因子を探索する目的で、RNA-seqによるディスカス粘液中遺伝子の網羅的発現解析を行った。また、哺育因子と思われる物質についてディスカス粘液中のウエスタンブロット解析及び仔魚の消化管の免疫染色を行った。その結果、哺育期のディスカス粘液中で免疫系の遺伝子群、特に免疫グロブリンを構成する遺伝子が誘導されていることが分かった。また、仔魚が親魚の粘液由来の免疫グロブリンを摂餌していることが示唆された。 RNA-seqにより哺育期と非哺育期のそれぞれの粘液で発現している遺伝子を比較した結果、非哺育期に比べ哺育期に発現が抑制される遺伝子数は12であるのに対し、誘導される遺伝子数は160と多く、ディスカスの親魚は仔魚の育成のため複数のタンパク質の合成を促進していることが示唆された。また各遺伝子の発現パターンをもとに行ったクラスター解析では、Breed 4個体、Non-Breed2個体がそれぞれ同グループになることを期待したが、結果としてNon-Breed1とNon-Breed2及びBreed3とBreed4が同グループに、Breed1とBreed2が他4個体の外縁のグループに分類された。Breed1,2とBreed3,4が異なるグループに分類された原因として、粘液採取時の仔魚の孵化後日数の違いが考えられる。Breed3,4がともに仔魚の孵化後5日目の時期に採取しているのに対し、Breed1,2はそれぞれ仔魚の孵化後8,13日目の時期に採取したものである。哺育期のディスカスは仔魚の孵化後の経過日数にあわせ粘液中のイオン含量等を変化させるという報告があり、Rディスカスは仔魚の成長段階にあわせ異なる遺伝子の発現を誘導させることで粘液中のタンパク質組成等を変化させていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
哺育期に誘導された遺伝子の上位には免疫グロブリンを構成する遺伝子が複数含まれていることがはじめて確認された。またGO解析の結果、免疫系に関わる遺伝子群の上昇が顕著に確認された。親魚の粘液中免疫グロブリンが仔魚に摂餌されているかを確認する目的で、仔魚の組織切片の免疫染色を行った結果、消化管内で免疫グロブリンと思われるシグナルが検出され、仔魚が親魚の粘液中の免疫グロブリンを摂餌し体内に取り入れている可能性が示唆された。一部の魚類は飲作用により消化管でタンパク質を消化せずに高分子の状態で体内に取り込むことが知られており、孵化後2日のサヨリ仔魚やキンギョ成魚は後部腸管で飲作用により物質を取り込むことが明らかにされている。また、哺乳類の新生児は抗体を合成する能力がなく、母体から初乳を通じて経口的に受動免疫を受けることが知られている。仮に、ディスカス仔魚がこれらの例のように取り込んだ免疫グロブリンを直接吸収し体内で利用していた場合、親魚の粘液中の免疫グロブリンは仔魚の生残にとって非常に重要なものだといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本実験では摂餌された免疫グロブリンの消化管での吸収形態を解明するには至らなかったが、今後標識された免疫グロブリンなどの給餌により、ディスカスの仔魚が取り込んだ免疫グロブリンの動態を追う必要があると考えられる。哺育期にディスカスの粘液中で免疫グロブリンを構成する遺伝子の発現が誘導され、仔魚は粘液中の免疫グロブリンを摂餌することで生残を優位にしている可能性が示唆された。さらなる研究によりディスカス粘液中の哺育因子の特定及びそれらの仔魚体内での作用機序が明らかにされれば、仔魚期の生残率が低く種苗生産の困難なウナギなどの養殖魚の初期餌料への応用等による養殖魚への貢献も期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験魚であるディスカスの産卵回数が予想より少なく、バイオアッセイならびに生化学・分子生物学分析に十分な稚魚が得られなかったため。
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