• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2018 年度 実施状況報告書

マングローブ植物による嫌気性土壌への酸素供給と硝酸態窒素利用の可能性

研究課題

研究課題/領域番号 17K19292
研究機関京都大学

研究代表者

小山 里奈  京都大学, 情報学研究科, 准教授 (50378832)

研究分担者 井上 智美  国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (80435578)
松尾 奈緒子  三重大学, 生物資源学研究科, 講師 (00423012)
大手 信人  京都大学, 情報学研究科, 教授 (10233199)
黒岩 恵  中央大学, 理工学部, 助教 (00761024)
研究期間 (年度) 2017-06-30 – 2020-03-31
キーワードマングローブ植物 / 硝酸態窒素 / 硝酸還元酵素 / 硝化 / 根圏
研究実績の概要

マングローブ林は熱帯・亜熱帯の沿岸域に成立し、その土壌はほぼ常時あるいは潮汐に伴って定期的に冠水するため、地下部は嫌気状態になることが多い。その結果、土壌中で酸素が必要な硝化(アンモニウム態窒素の酸化)が起こらず、マングローブ植物の窒素利用については、窒素源としてアンモニウム態窒素を利用すると考えられ、植物種によって大きく異なる硝酸態窒素を利用する能力は着目されてこなかった。
しかし、予備調査の結果、マングローブの1種オヒルギは硝酸態窒素を利用している可能性が示された。マングローブ植物の多くが気根から大気中の酸素を獲得しており、その一部が根から土壌に漏出して硝化に利用された可能性があるが、根の分布と硝酸態窒素の生成の関係はまだ検証されていない。本研究では、マングローブ植物は気根からの酸素供給によって自らの根圏における硝化を促進しているのか、マングローブ植物は根圏で生成される硝酸態窒素を窒素源として利用できるのかという2点に関する検証を試みている。
これまでに、予備調査で対象としたオヒルギ(やや陸側の塩分濃度が低い場所に分布)に加え、ヤエヤマヒルギ(耐塩性が高く、やや海側に分布)の実生苗を対象として硝酸態窒素利用能力を検証するための水耕栽培実験を行った。その結果、オヒルギはヤエヤマヒルギに比較して硝酸態窒素を利用する能力が高く、供給された硝酸態窒素に反応する能力も高いことが示された。
マングローブ植物による根圏における硝化の促進に関しては、沖縄県西表島において現地調査を行う。オヒルギとヤエヤマヒルギの根圏を含む土壌を採取し、土壌中に分布する根量と土壌の硝化に関わる項目の比較を試みている。昨年度実施した予備実験に基づいて測定条件を設定し、同位体希釈法による硝化速度の測定を行っている。さらに今後は土壌微生物に関して分子生物学的手法を用いた調査を進める予定である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2018年度の実施内容は、2017年度に行った水耕実験における要確認事項のための補足的実験と、野外調査による土壌サンプルの採取と分析である。
水耕実験において、細根の分類基準を変更することが植物の酵素活性の評価に影響し得ることが前年度の実験の結果から懸念されたため、細根をサイズによって分類して追試を行った。その結果、前年度に実施した実験の結果に影響はないことが確認された。
また、野外調査においては、沖縄県の西表島においてオヒルギとヤエヤマヒルギの根圏土壌の採取と総硝化速度の測定を行った。対象2種の根が分布する範囲から採土円筒を用いて土壌を採取し、単位容積あたりの土壌中の細根分布量を測定した。現在、前年度に行った予備実験に基づいて設定された条件を用い、それぞれの土壌サンプルについて同位体希釈法により総窒素無機化・硝化速度の測定を進めている。研究計画にある分子生物学的手法を用いた土壌微生物の分析にはまだ至っていないが、サンプルは準備できており、他の項目についての分析も進んでいるので、総合的には問題なく進捗していると考える。

今後の研究の推進方策

今後は、主に野外調査で採取された土壌サンプルの分析、特に土壌微生物に関する分析を重点的に行う。また、これまでに得られた成果の公表を行う。
前年度の野外調査において、沖縄県西表島に分布するオヒルギ(やや陸側の塩分濃度が低い場所に分布)とヤエヤマヒルギ(耐塩性が高く、やや海側に分布)の根圏土壌を採取した。当初、土壌サンプルを根の有無によって2分類とすることを予定していたが、樹木個体からの距離や方向の異なる複数のサンプルを採取し、それぞれについて土壌容積あたりの根量を調査する方法への変更を行った。これにより、マングローブ植物の根が土壌に及ぼす影響についてより詳細に把握することを試みる。現在、前年度に行った予備実験に基づいて設定された条件を用い、それぞれの土壌サンプルについて同位体希釈法により総窒素無機化・硝化速度の測定を進めている。また、硝化菌の分布について、土壌からDNAを抽出し、硝化を担う微生物機能群のアンモニア酸化酵素遺伝子を対象とした遺伝子の塩基配列解読および定量を行う。根量が土壌全体に占める根圏土壌の比率に反映されると考え、対象種のそれぞれについてこれらの項目と根量との比較を行う。

次年度使用額が生じた理由

理由:初年度に採択が決定されたのが当初想定されていたよりも遅く7月だったことにより、春期から夏季にかけて野外調査や実験を行うことができず、計画よりも旅費の使用額が少なくなったため、翌年度使用分が発生した。昨年度に当初実施予定の野外調査に加え、追試験を必要とする実験などの旅費および必要な分析・実験用消耗品費に使用する計画であったが、追試験に必要な費用が前年度から繰り越された額を下回ったことと、分子生物学的手法による土壌微生物の分析に今年度は至らず、そのための分析・実験用消耗品費を使用しなかったため。
使用計画:主に、分子生物学的手法による土壌微生物の分析に必要な分析・実験用消耗品費および実験用旅費として使用する。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (3件)

  • [雑誌論文] Photosynthesis, respiration, and growth patterns of Rhizophora stylosa seedlings in relation to growth temperature2019

    • 著者名/発表者名
      Yasuaki Akaji, Tomomi Inoue, Hajime Tomimatsu, Ayumi Kawanishi
    • 雑誌名

      Trees

      巻: 33 ページ: 1041-1049

    • DOI

      10.1007/s00468-019-01840-7

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Stream Runoff and Nitrate Recovery Times After Forest Disturbance in the USA and Japan2018

    • 著者名/発表者名
      Oda Tomoki、Green Mark B.、Urakawa Rieko、Scanlon Todd M.、Sebestyen Stephen D.、McGuire Kevin J.、Katsuyama Masanori、Fukuzawa Karibu、Adams Mary B.、Ohte Nobuhito
    • 雑誌名

      Water Resources Research

      巻: 54 ページ: 6042-6054

    • DOI

      10.1029/2017wr021986

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Black spruce assimilates nitrate in boreal winter2018

    • 著者名/発表者名
      Koyama Lina A、Kielland Knut
    • 雑誌名

      Tree Physiology

      巻: in press ページ: in press

    • DOI

      10.1093/treephys/tpy109

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Nitrate is an important nitrogen source for Arctic tundra plants2018

    • 著者名/発表者名
      Liu Xue-Yan、Koba Keisuke、Koyama Lina A.、Hobbie Sarah E.、Weiss Marissa S.、Inagaki Yoshiyuki、Shaver Gaius R.、Giblin Anne E.、Hobara Satoru、Nadelhoffer Knute J.、Sommerkorn Martin、Rastetter Edward B.、Kling George W.、Laundre James A.、Yano Yuriko、Makabe Akiko、Yano Midori、Liu Cong-Qiang
    • 雑誌名

      Proceedings of the National Academy of Sciences

      巻: 115 ページ: 3398-3403

    • DOI

      10.1073/pnas.1715382115

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] 日中および夜間の生育温度上昇に対するヤエヤマヒルギ実生の形態的・生理的変化2019

    • 著者名/発表者名
      赤路康朗、井上智美
    • 学会等名
      日本生態学会第66回大会
  • [学会発表] マングローブ植物への新たな窒素供給経路の検証―呼吸根通気システムと窒素固定菌2019

    • 著者名/発表者名
      井上智美、高津文人、下野綾子
    • 学会等名
      日本生態学会第66回大会
  • [学会発表] Nitrogen biogeochemistry in catchment ecosystems in Japan: Uniqueness and its imprecations2019

    • 著者名/発表者名
      N. Ohte
    • 学会等名
      Special Lecture at Department of Geography and Environmental Development, Ben-Gurion University of the Negev, Be’er Sheva, Israel
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Geographical comparison leads to a deeper understanding on the nitrate export mechanisms in forest catchments: To generalizations from unique cases2019

    • 著者名/発表者名
      N. Ohte and M. Katsuyama
    • 学会等名
      日本生態学会第66回大会
  • [学会発表] The Estimation of CO2 Flux in Subtropical Coastal Ecosystems Using a Numerical Model2018

    • 著者名/発表者名
      Moki H., Sohma A., Shibuki H., Toyoda K., Akhand A., Watanabe K., Tokoro T., Inoue T., Yamano H., Banno M., Nakagawa Y., Matsuda H., Kuwae T.
    • 学会等名
      JpGU-AGU Joint Meeting 2018
    • 国際学会
  • [学会発表] 生育温度がヤエヤマヒルギ実生の生残・成長・光合成に与える影響2018

    • 著者名/発表者名
      赤路康朗、井上智美、冨松元、川西あゆみ
    • 学会等名
      中国四国地区生物系三学会合同大会
  • [学会発表] マングローブ根圏に形成される窒素固定細菌群集2018

    • 著者名/発表者名
      下野綾子、井上智美
    • 学会等名
      第一回環境DNA学会
  • [図書] 森林生態学 5.1 水循環2019

    • 著者名/発表者名
      小山里奈(石井弘明ら編)
    • 総ページ数
      184
    • 出版者
      朝倉書店
    • ISBN
      978-4-254-47054-3
  • [図書] 生態系生態学(第2版) 第8章 植物の養分利用2018

    • 著者名/発表者名
      小山里奈(加藤知道ら監訳)
    • 総ページ数
      608
    • 出版者
      森北出版
    • ISBN
      978-4-627-26122-8
  • [図書] Carbon Sequestration in Mangroves (In: Blue carbon in Shallow Coastal Ecosystems: Carbon Dynamics, Policy, and Implementation)2018

    • 著者名/発表者名
      Tomomi Inoue (Kuwae T. and Hori M. eds)
    • 総ページ数
      373
    • 出版者
      Springer
    • ISBN
      978-981-13-1294-6

URL: 

公開日: 2019-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi