本研究では、樹木の通道組織構造体に触媒を固定化し、触媒反応流路として利用することで、高効率な連続フロー有機合成を志向した新規固定化触媒フローリアクターの開発に取り組んだ。昨年度は、樹木の通道組織そのものではなく、リグニンやヘミロースを取り除いたセルロースパルプで検討する方針転換を行ったが、様々な有機合成に用いられる金・パラジウムナノ粒子触媒をパルプに固定化する手法を確立し、それを多孔質な紙に成型した「ペーパーリアクター」を調製した。また、連続フロー式のクロスカップリング反応プロセスにおいて、高い反応効率を確認できた。 目的生成物の収率や選択率をさらに高めるためには、触媒反応温度の精密制御が不可欠となる。しかし、ヒーター等を用いてリアクターの外部から加熱する従来手法では、リアクター内部に温度ムラが生じやすい。そのため、触媒周辺の温度をより効果的に制御するための新規加熱技術が求められている。そこで今年度は、ペーパーリアクターの加熱手法を検討した。金ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴現象に着目し、ペーパーリアクター内部に固定化した金ナノ粒子触媒への光照射による直接加熱を検討した。1.0 W/cm2の疑似太陽光を照射すると、1分以内で100℃以上の温度上昇を達成し、光照射を止めると1分以内で元の温度に戻る素早い応答性も示した。金ナノ粒子無しの場合は温度変化が小さかったことから、金ナノ粒子触媒自体が光によって加熱されていることが示唆された。また、ペーパーリアクター内部の細孔構造を制御することで、温度上昇効果がさらに向上することも見出した。光を用いた触媒加熱技術として、今後の応用展開に期待が持たれる。 関連成果については、学会・専門誌3報、招待講演7件、国際学会1件、国内学会2件の発表を行った。
|