研究課題/領域番号 |
17K19296
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
亀井 一郎 宮崎大学, 農学部, 教授 (90526526)
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研究分担者 |
津山 濯 宮崎大学, 農学部, 助教 (40786183)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 白色腐朽菌 / 細胞外ベシクル / 分泌 / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
あらゆる細胞が脂質二重膜からなるナノサイズの小胞を細胞外に分泌していることが知られている。この小胞は、以前は細胞内の老廃物を排出するためのものとされていたが、近年、mRNA や miRNA、膜タンパク質などを内包していることが明らかになっており、細胞間の情報伝達物質としての働きが注目されている。菌類ではヒトへの感染性をもつ担子菌 Cryptococcus neoformans において、その細胞外小胞(Extracellular Vesicle : EV)が、ラッカーゼをはじめとする病原性に関与する酵素を内包していることから、宿主細胞への病原ファクターの輸送に関与していることが示唆されている。本研究では、自然界において広く分布し、リグニン分解酵素であるラッカーゼを多く生産するカワラタケ Trametes versicolor を用い、培養液中の EV の有無を調べた。 合成培地である Kirk-LN 液体培地を用いて菌糸を培養し、その培養液から段階的な遠心分離によって胞子や細胞断片などを取り除き、その上清を限外濾過により濃縮後、最終的に 200,000×g の超遠心分離により得られる沈殿を EV サンプルとした。超遠心分離後、遠心チューブ下部に無色の沈殿物が確認された。その沈殿物を SDS-PAGEに供し、銀染色で可視化したところ、25~150 kDa の分子量をもつタンパク質のバンドが多数検出された。TEM 観察では 200 nm 前後の丸い物体が点在している様子が観察された。粒子径測定では、サンプル濃度が低いことが原因と考えられる計測エラーにより正確な粒子径分布は算出されなかったが、40~700 nm の範囲の大きさの物質が沈殿に含まれるという結果が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラッカーゼの分泌に優れた白色腐朽菌Trametes Versicolorを対象として、液体培地での菌糸の培養と培養液からの細胞外ベシクル画分の調製法を検討した。動物細胞および微生物における細胞外ナノベシクルの調製法を参考に、超遠心を用いた段階的な分離を試み、沈殿物を得、そのフラクションの電子顕微鏡観察、脂肪酸およびタンパク質の分析を行った。当初計画では、電子顕微鏡でナノ粒子を可視化し、細胞外ナノベシクルの存在を直接的に示す予定であったが、化学固定および包埋、および透過型電子顕微鏡観察の条件設定が難航し、初年度においては直接的にナノベシクルの存在を示すデータは得られなかった。しかしながら、フラクション中のタンパク質の存在、脂肪酸が示す細胞膜の存在を示すことができ、間接的ではあるがナノベシクルの存在の可能性を示すことができた。一方で、得られたタンパク質および脂肪酸量が微量であることから、培養方法についても改善の余地がある。直接的な観察については、培養および分離・固定・観察において、方法論の改善余地があることから、次年度につながるデータを確実に得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最大の目的は、白色腐朽菌が細胞外ナノベシクルを分泌していることを確実に証明することにある。29年度の研究では、ナノベシクルの分離・精製方法に一定のめどがついたものの、液体培地から得られたフラクション中のナノベシクル量が少ないことが示唆された。そこで、30年度は寒天培地とメンブレンを基盤とした固体培地からのナノベシクルの抽出・精製、観察を行う。本来、糸状菌は液体ではなく固相条件での生育が自然条件に近いため、活発に文筆活動を行う細胞および高濃度のナノベシクル画分を得られる可能性が高い。分離方法については、これまでの遠心分離法では菌の生産する多糖類の混入が多いため、スクロースクッション法を用いた精製を行う。また、化学固定および樹脂包埋では観察が困難であることが明らかとなったため、ネガティブ染色によるよりマイルドな固定法を採用し、電子顕微鏡観察を行う。上記で、白色腐朽菌の分泌するナノベシクルの存在を証明することを最優先課題として研究を進める。その後、他の白色腐朽菌でのナノベシクルの存在および木材腐朽時におけるナノベシクルの存在とその役割の解明に向けて研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ナノベシクルの精製および電子顕微鏡を用いた観察に必要なテクニカル面において、培養と遠心分離を用いた精製手法の検討に時間がかかり、当初予定していた電子顕微鏡観察が後ろ倒しとなった。次年度使用額については、この予定していた電子顕微鏡観察を推進するために、専門知識を持った研究員の雇用と合わせて使用する。
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