研究課題/領域番号 |
17K19301
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
北尾 光俊 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員等 (60353661)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | トドマツ / 光阻害 / 林床稚樹 |
研究実績の概要 |
春の特異的な光阻害は、北海道において報告された晩霜害によるアカエゾマツ既存の葉の枯死、また、冬皆伐によって直射日光にさらされたトドマツ前生稚樹の春季の葉の赤変・枯死を説明するものであるが、残念ながら春季の光阻害が生じるメカニズムについては全く解明されていないのが現状である。本研究は、常緑針葉樹であるトドマツを対象として、遺伝子発現の網羅的解析と代謝反応の包括的解析を行うことで開葉直前に光阻害感受性が増大する原因を生理生化学的側面から特定し、春季の光阻害が樹木の生存へ与える影響を解明することを目的とする。平成29年度は平成30年度春の光阻害測定のために、異なる光環境に順化したポット苗を作成することを達成目標とした。平成29年4月に、森林総合研究所北海道支所実験林苗畑で生育する4年生トドマツ稚樹を堀取り後、低温貯蔵室に保管し、5月中旬に容量約5リットルのプラスチックポットに移植した。培地は鹿沼土と赤玉土を1:1の割合で配合したものを用い、施肥として遅効性固形肥料(Osmocote Exact Standard 15-9-11 +TE、ハイポネクス社)を20g/ポット与えた。全個体数の1/3にあたる30個体は全天環境で生育を行った。一方で、トドマツ林床の前生稚樹を想定して、残り60個体を庇陰環境で生育させた。庇陰処理は、寒冷紗を用いて小型の庇陰格子を作成し、その中でポット苗を生育させることで行った。光量子センサー(Li-190S、Li-Cor社)による実測の結果、庇陰格子内の光環境は相対照度で約12%であった。この相対照度は比較的明るい林床の光強度と同等で、トドマツ林床の光環境を再現しており、稚樹の成長を妨げない光環境と考えられる。全天、庇陰環境で生育したトドマツの葉はそれぞれ陽葉、陰葉の形態的特徴を示しており、トドマツ苗木がそれぞれの光環境に順化したことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全天環境、ならびにトドマツ林内の庇陰環境を模した庇陰格子内で順化させたトドマツ苗木は病害、虫害を受けずに健全に生育した。さらに、冬季の野鼠による食害を避けるためにトドマツポット苗を室温4℃の冷蔵室に保管して春季の実験に備えた。苗木の状態は良好であり、平成30年度春季の実験を予定通り開始できる状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
全天環境で生育したトドマツ苗木を対象に、新葉の開葉前後に、光阻害の測定と遺伝子発現解析、メタボローム解析を行う。光合成活性の指標として、光化学系Ⅱの最大効率(Fv/Fm)を測定する。測定及びサンプリングは4月下旬から週2回の間隔で行う。サンプリングした葉からRNAを抽出し、次世代シークエンス分析により遺伝子発現解析を行う。また、一年生葉が光合成産物であるデンプンを蓄える状態から、新葉展開のために放出する状態に変化する際の代謝系に生じる変化を捉えるために、メタボローム解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
学術雑誌Scientific Reportsの掲載料(約2,000 USD)を平成29年度内に支払う予定としていたが、論文掲載の遅れにより掲載料の支払いが平成30年度となったため。平成30年度に、改めて学術雑誌Scientific Reportsの掲載料としての使用を計画している。
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