本研究では、病魚自身の血清抗体を利用した病原体の精製と、小規模なメタゲノム解析を組み合わせ、迅速かつ安価で、誰でも簡単に実施できる病原体の特定方法の確立を目指す。 魚類に共通して血中抗体と結合する担体を探索したところ、proteinA担体により効率的に抗体を吸着できるが、製品によって性能に差が有ることが明らかとなった。また、最も成績の良かった担体を用いても、ウナギの抗体は吸着することができなかった。 極微量の病原体からゲノムを増幅する方法を検討したところ、断片化したゲノムにアダプターを連結し、アダプターに特異的なプライマーを用いてPCRにより増幅する手法では、細菌のようなゲノムサイズの比較的大きい病原体には有効だが、ウイルスのようなゲノムサイズの小さな病原体では増幅効率が低かった。一方で、ローリングサークル法による増幅ではゲノムの大小にかかわらず増幅が可能であった。ローリングサークル法で増幅したゲノムを超音波で断片化し、プラスミドにクローニングし、インサートをシーケンスすることで、2日間で標的病原体のゲノム配列を取得することが可能であった。 以上の結果を考慮し、魚類の血清抗体が効率よく結合するproteinA担体を用いて実験感染魚の血清抗体を吸着させ、そこに病魚の臓器磨砕液を通過させることで、抗体を用いた病原体の精製を試みた。陽性対照として、解析する病原体に対して作成したウサギ抗血清を用いた。ウサギ抗血清を用いた場合では、抗体によって病魚の臓器中の病原体を補足することが可能であった。しかし、魚類の血清を用いた場合では、病原体を補足できなかった。試験に用いるバッファー組成や、洗浄方法等を工夫しても結果は改善できなかった。魚類の抗体は病原体を精製するには十分な結合力を有していないと推測された。
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