なぜ農業経営者は高齢となっても簡単には離農の意思決定をしないのか.この理由について実証的に解明することは,農地流動化に関する潜在的な可能性を顕在化させるための基礎的知見の収集として緊急の課題である.本研究では,実験的経営研究手法を援用し,高齢な農業経営者の離農に対する阻害要因・促進要因を解明することにより,離農促進方策の提案を試みた. 構築する具体的な意思決定モデルについて,農業経営者の離農に関する意思決定行動は,各人の離農に対する動機の強さと阻害要因の強さとの葛藤であり,多様な阻害要因解消のための経営行動であるととらえる視点が重要である.つまり,離農に関する意思決定場面において,各意思決定者(農業経営者)の経営理念に規定される離農に関する潜在的動機が機能し,動機が顕在化すれば,離農に関する意思決定が成立すると考えられる. ところで,農業経営者の離農に関する意思決定の実証分析については,離農自体を対象としたアプローチを総合的に行うことは困難であり,様々な離農形態に応じた事例ベースの一般化の蓄積が効果的である.本研究では,高齢農家の経営継承の一形態としての後継者の通勤農業,及び,第3者継承を支援する就農研修制度利用者の就農後離農に焦点を当て,モデル分析を試みた. 昨年度は,具体的な意思決定モデルを実証する対象としてA県K町とG町を選定したが,2018年7月に発生した西日本豪雨の影響により,これらの調査先との連携を一時中断せざるを得ない状況となった.本年度は,研究期間の1年間の延長を経て,実証分析を行った. 結果,G町における通勤農業,K町における就農研修後就農者の進路変更を対象とした離農促進,後継者就農要因の意思決定モデルを提示した.
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