本研究ではガスや光などの物理的環境要素がカット処理された植物組織の生理活性に及ぼす影響を検討し,保蔵中の栄養機能性向上に関わる能動的な生理活性物質の生合成促進を目指す. 2020年度は,殺菌液を温湯化して浸漬処理するとともに保蔵時の封入ガス環境を調整してカット野菜サンプルの保蔵性を確認した.保蔵性の評価パラメータとして保蔵中に生じる外観の色情報変化,褐変現象に関係するPPOおよびPALそれぞれの活性変化,また栄養機能性に関わる抗酸化性変化を測定した.実験試料は前年度までと同様にレタスを使用した.試料は3cm四方の大きさにカット加工のあとで温水に短時間浸漬し,その後殺菌処理してガスバリア性ナイロン袋に封入した.封入時には酸素濃度を調節したガスを充てんした.ガス充てん後は5℃の冷暗環境下に静置し,一定期間ごとの外観,酵素活性,抗酸化能を調査,検討した.外観の色彩変化はデジタル画像から色情報を抽出処理することで色差として定量的に評価した.試料のPPOおよびPALそれぞれの活性は粗酵素抽出液の酵素活性から算出した.実験の結果,温湯化した殺菌液に浸漬することで外観の変色や物性変化の抑制傾向が確認された.また保蔵中に充填する炭酸ガスは濃度が高いほど変色抑制傾向が確認され,PPOおよびPAL活性に対しても顕著な影響が確認された. 外観の変色に関わる保蔵サンプルの褐変現象は,PALが活性化しポリフェノール合成を促進することで顕在化する.PAL活性を増加させる要因として切断加工やオゾン暴露などのストレスによって生じるラジカルの関与が報告されている.本研究の結果から殺菌液の温湯化と浸漬処理によりPAL活性が抑制され,その結果変色や物性の抑制傾向が確認されたと考えられた.
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