研究課題/領域番号 |
17K19306
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富士原 和宏 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30211535)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | CO2施用 / 温室 / デジャブ・データ検索 / ヒューリステック / 推定法 / 植物個体群 / 純光合成速度 / 換気回数 |
研究実績の概要 |
本研究では、換気中の温室であっても、CO2施用の効果を最大限に発揮させ得る、合理的なCO2施用を行うための中核技術となる、CO2施用速度-温室内植物個体群純光合成速度応答曲線(以後、CP曲線)のリアルタイム推定法を開発する。具体的には、考案したCP曲線のリアルタイム推定法に必要な修正・改良を加え、実用に供し得る推定法へと仕上げることを目的とする。 平成29年度の目標は、CP曲線のリアルタイム推定法を強制換気小型モデル温室(特大型デシケータ)に適応し、推定法の問題点を抽出・整理し、必要な修正・改良案を提案するとであった。この目標に対して、今年度の研究実績は、当初の計画に対しておよそ十分なものであった。 強制換気(換気回数一定:平均11.6 h-1)小型モデル温室(特大型デシケータ)内でキュウリ2株を養液栽培し、温室内外の環境要素測定を17日間行い、とくに植物個体群純光合成速度の推定値と実測値の比較に基づいて、CP曲線のリアルタイム推定法の問題点の抽出を行った。この実験により、現時点の推定法が当初想定していたレベルで機能すること、およびその精度については改善の余地があることを確認した。具体的には、植物の生長に伴う温室内植物個体群純光合成速度補正法が当初の方法では問題となる程度のバラツキをもたらす可能性があること、およびデジャブ・データ検索のための各環境要素に対する許容範囲設定がCP曲線の推定精度に対して予想以上に大きな影響を及ぼすことを見出した。これら2つの問題点の解決は重要課題であり、直ちにそれらに対する修正・改良案を作成した。平成30年度にこの修正・改良案を実行し、それらの有効性を検証する。 なお、デジャブ・データ検索のための各環境要素に対する許容範囲設定に関する改良に関連して、当初の計画に含まれていなかった実験を行う必要が生じた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画をおよそ順調に遂行しており、また、予定通りに遂行した実験により、当初は想定していなかった重要な問題点を見出すこともできた。その問題点に対しては、有効な修正・改良案をすでに作成していることもあり、全体として「おおむね順調に進展している」と評価している。ただし、その改良に関連して、当初の計画に含まれていなかった実験を今後行う必要が生じた。
|
今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」に記載した、CP曲線のリアルタイム推定法の問題点に対する修正・改良案の有効性を検証する。具体的には、強制換気小型モデル温室(特大型デシケータ)内でキュウリ2株を養液栽培し、温室内外の必要な環境要素測定を20日程度行い、とくに植物個体群純光合成速度の推定値と実測値の比較に基づいて、上記の修正・改良案の有効性を検証する。 また、デジャブ・データ検索のための各環境要素に対する許容範囲設定に関する改良に関連して、当初の計画には含まれていなかった実験を今後行う必要が生じたため、その実験を行う。具体的には、デジャブ・データ検索のための各環境要素に対する許容範囲は、原案では任意の範囲に固定することにしていたが、この設定範囲がCP曲線の推定精度に対して予想以上の影響を及ぼすことが判明したことから、この許容範囲の合理的決定方法を策定する必要が生じた。そのために、完全制御環境下でありながら、自然環境下にある温室の各環境要素変動に近い変動を実現した環境で栽培実験を行い、栽培植物の純光合成速度等を測定・解析することで、デジャブ・データ検索のための各環境要素に対する許容範囲の合理的決定方法を見出し提案する。 最後には、CP曲線のリアルタイム推定法を実用に供し得る推定法へと仕上げることを目的として、強制換気式の小型ガラス温室を用いてCP曲線のリアルタイム推定を実施し、必要があれば更なる修正・改良を行う。 上記の計画を短期間で順調に遂行できた場合には、強制換気式の小型ガラス温室を用いて、CP曲線のリアルタイム推定法を用いた1ヶ月程度のCO2施用実施試験も行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
最も大きな理由は、前述の通り、デジャブ・データ検索のための各環境要素に対する許容範囲の合理的決定法を策定する必要のあることが昨年11月に判明し、これにより当初の計画には含まれていなかった実験を行う必要が生じた。この実験は、完全制御環境下でありながら、自然環境下にある温室の各環境要素変動に近い変動を実現した環境で行うものである。そして、そのような環境を作出するには、自然光に近い分光分布の光を照射可能なLEDが必要であり、そのためのLEDを探した結果、小ロットでも入手可能であったのが豊田合成(株)が開発済みで次年度(2018年5月)に量産化予定のものであった。特殊なLEDであるため高価なこと、そのLEDを組み込んだLEDパネルの製作費、およびそのLEDパネルを設置して少数植物個体の純光合成速度を同化箱法で測定するシステムを組み上げるための物品も必要となることから、それらを次年度に購入できるよう、当該年度の科研費の使用を大幅に抑えたためである。また、昨年度の学部生が本研究課題の中心的部分を卒業論文テーマに選択したため、当初想定していた人件費・謝金の支出が不要となったことも理由である。 当初の計画には含まれていなかった実験遂行用の、太陽光に近似した分光分布の光を照射可能なLEDパネル、および同化箱法による純光合成速度測定システム用物品を5月および6月に集中的に購入する予定である。
|