研究課題/領域番号 |
17K19313
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
遠藤 良輔 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (10409146)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 光センシング / メタゲノミクス / 多変量解析 / メタン発酵 / 蛍光 |
研究実績の概要 |
従来の光センシングによるメタン発酵モニタリングは,生物学的な情報が十分でなく発酵プロセスの一部がブラックボックスとなっている傾向があった。本研究課題では,メタン発酵液を対象として蛍光分光センシング情報ならびに微生物メタゲノム情報を同時取得してこれらを統合的に解析し,メタン発酵槽内部状態の「見える化」に挑戦する。 平成29年度は,異なる鉄濃度(3,8,13,23 mg/L)のモデル生ごみメタン発酵における励起蛍光マトリックス(励起波長200-500 nm,蛍光波長200-500 nm),分光反射率(280-1000 nm),原核生物の微生物菌叢,発酵液のpH,酸化還元電位およびガス発生量を調べ,それぞれの関係性について調べた。 鉄濃度が高くなるに伴ってメタン発酵液は黒色に変化した。500-800 nm付近の分光反射率は鉄濃度と高い正の相関を示した。蛍光測定では,基質由来のフェルラ酸,微生物の代謝由来のタンパク質様物質ならびに腐植酸のピークが得られた。蛍光強度は鉄濃度13 mg/Lで最大となり,分光反射率とは異なる傾向を示した。 鉄濃度と微生物の出現割合の関係は種によって多様であった。そのうち,メタン生成に関与するMethanobacteriaceae科や硫化水素や硫化鉄生成に関与するSyntrophorhabdaceae科は鉄濃度と高い負の相関を示した。 得られたデータの相関関係をネットワーク図として表したところ,鉄濃度の変化に感度の高い蛍光波長,分光反射率,微生物筋群をいくつか抽出することができ,さらに抽出されたデータの特徴から本実験におけるメタン発酵の黒色化が腐植物質ではなく硫化鉄生成に由来するものであることが推定できた。このように,蛍光と反射の同時分光測定と菌叢解析の統合がメタン発酵の内部状態把握に有用である可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,鉄濃度の異なるメタン発酵から励起蛍光マトリックス・分光反射率・微生物菌叢・メタン発酵特性のデータを取得し,かつ,これらのデータを統合して解析する多変量解析プログラムを構築できたため。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,さらなるデータセットの積み上げと平成30年度のサブ課題としている『網羅的な蛍光分光指標探索ならびに指標の有効性検証』をおこなう。具体的には,平成29年度のプログラムにPLSあるいは機械学習を組み込み,分光情報による微生物菌叢ならびに発酵状態の予測を行う。実験はモデル作成用と評価用の2種類を行い,モデルの精度について検証する。分光情報のみでは十分でない場合,微生物菌叢を目的変数から説明変数に切り替えて,分光情報ならびに微生物菌叢情報からのメタン発酵状態の予測を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA抽出キットならびにPCRのための消耗品費を始めとした,当初購入を予定していたメタゲノミクス関連の試薬の必要購入量が少なく済み,また,より安価な試薬をみつけることができたため。
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