近年のウシ生産においては効率やコストの観点から穀物飼料を多給する傾向にあり、これに伴い第一胃(ルーメン)内発酵異常に端を発する代謝性疾患(生産 病)が問題となっている。本申請課題ではルーメン発酵の主体である細菌群のうち、生産病と連動して増減する細菌をバイオマーカーとして活用することの可能性を検討することを目的とした。 前年度(平成29年度)までに、ウシの口腔内反芻残渣(ルーメン内容物の吐き戻し)を用いることでルーメン細菌叢の解析が可能であることを確認した。最終年度は確立した解析手法を応用し、黒毛和種肥育牛のルーメン菌叢解析を実施した。同一牛群(48頭)について、濃厚飼料の給与量が増加する14ヶ月齢から18ヶ月齢にかけて反芻残渣を採取した。いずれの月齢においても、過去の研究で特定した重要ルーメン細菌5菌群が総細菌の10~35%の割合で検出された。重要5菌群の分布量は月齢の進行に伴い変化し、14ヶ月齢に比べて18ヶ月齢ではButyrivibrioグループ、Ruminococcaceae C1グループなどが減少した。一方、重要5菌群の分布量には大きな個体差が認められたことから、各菌群の分布割合に基づいて菌叢タイプを類型化したところ、15ヶ月齢ではPrevotella属優勢型(P型)、Ruminococcaceae C1グループ優勢型(C型)およびそれらの中間型(M型)の3タイプに分かれた。18ヶ月齢では、C型とM型が減少した一方、Butyrivibrio優勢型(B型)型が出現し、ルーメン菌叢はP型とB型に大別された。P型で多く見られたPrevotella属細菌はプロピオン酸産生に関与し、B型で多く見られたButyrivibrioグループは酪酸を産生する。この結果より、本研究の菌叢タイピング手法を用いることで、黒毛和種肥育牛のルーメン発酵の予測・把握につながるものと考えられる。
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