自然免疫応答では、パターン受容体のToll様受容体(TLR)が微生物分子を認識し、この刺激でサイトカインやトリβディフェンシン(AvBDs)等の抗菌ペプチドが産生される。本研究はワクチン接種によりニワトリ卵巣の自然免疫系機能が強化される可能性を追究している。H30年度までに、微生物分子が卵胞膜の炎症性サイトカインとAvBDsの産生を誘導することを明らかにした。一方、産卵鶏へのサルモネラエンテリティディス(SE)ワクチンを接種すると卵胞膜においてTLRsとAvBDsの発現を増加させて自然免疫機能を高める可能性があること、これに連動してH3K9me2のヒストン修飾も増加することが示唆された。次いで、ヒナに定期複合ワクチンプログラムに従って4種類のワクチンを接種したところ、一部のTLR発現に影響し、AvBDs発現を低下させるので、自然免疫機能に影響することを示唆し、また、ヒストン修飾も変動する可能性を示した。R元年度はこれに関する実験を補強して、複合ワクチンプログラムが上述の自然免疫系に及ぼす影響を確立し、この免疫系機能への影響にはヒストン修飾によるリプログラミングが関わる可能性を示唆した。一方、ワクチン接種が卵巣だけでなく、他の組織にも影響するかを調べるために、腎臓の自然免疫関連分子を解析し、RNAウイルスの伝染性気管支炎ウイルスワクチンはTLR発現に、そしてDNAウイルスのマレック病ワクチンはAvBDの発現を増強することを示した。これらのことから雌鶏泌尿生殖器の自然免疫機能はワクチン接種の影響を受けることが明らかになった。この知見は、自然免疫機能を強化するために有効なワクチンの開発の基礎情報になると考えている。
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