研究課題/領域番号 |
17K19327
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
村上 昇 宮崎大学, 農学部, 教授 (80150192)
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研究分担者 |
小林 郁雄 宮崎大学, 農学部, 准教授 (20576293)
永延 清和 宮崎大学, 農学部, 准教授 (40264353)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | アミノ酸 / アミノインデックス / 必須アミノ酸欠乏 / バリン / 肥満 |
研究実績の概要 |
動物が単一の必須アミノ酸欠如餌を摂食すると、拒食と体重の著しい減少が引き起こされる。しかし、拒食を引き起こす中枢の機序や肝臓でのアミノ酸の恒常性維持機構は未だ解明されていない。そこで本研究では、必須アミノ酸の一つであるバリン(Val)の欠乏餌を給餌したマウスの視床下部および肝臓における遺伝子発現の網羅的な解析を行った。その結果、Val欠乏餌を摂食したマウスにおいて、視床下部のCrym、ItpkaおよびFoxg1 mRNAの発現レベルが有意に低下し、肝臓のEnho mRNA発現レベルが有意に増加することが明らかとなった。これらの遺伝子は、視床下部および肝臓においてVal欠乏への応答に関与していることが示唆された。次に、バリン(Val)欠乏餌の摂食が、肥満モデルマウスob/obの脂質代謝に及ぼす影響について検討した。wild-type (WT)マウスと同様に、ob/obマウスでもVal欠乏餌の摂食によって肝臓重量が有意に減少し、血糖値、 血漿コレステロール値が有意に低下した。しかしながら、WTマウスではVal欠乏餌の摂食によって白色脂肪重量が著しく減少したのに対して、ob/obマウスでは、白色脂肪重量に変化が認められなかった。さらに、WTマウスでは、Val欠乏餌の摂食によって、脂質生合成抑制ペプチドであるAdropinをコードするEnho mRNAの肝臓における発現が有意に増加したのに対して、ob/obマウスでは、通常状態でもEnho mRNAの肝臓における発現は著しく低レベルで、Val欠乏餌の摂食による発現の増加も認められなかった。以上の結果から、Val欠乏餌の摂食は、肥満状態および正常状態における脂質代謝を大きく変化させることが明らかとなった。また、AdropinがVal欠乏条件下での脂質代謝の制御にAdropinが関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に企画した4つの小課題の中の2017年度の2つを着実に行い、多くの知見を得ることができたため。特に、Val欠乏餌を摂食したマウスにおいて、視床下部のCrym、ItpkaおよびFoxg1 mRNAの発現レベルが有意に低下し、肝臓のEnho mRNA発現レベルが有意に増加することが明らかとなったこと、WTマウスでは、Val欠乏餌の摂食によって、脂質生合成抑制ペプチドであるAdropinをコードするEnho mRNAの肝臓における発現が有意に増加したのに対して、ob/obマウスでは、通常状態でもEnho mRNAの肝臓における発現は著しくレベルで、Val欠乏餌の摂食による発現の増加も認められなかったことは非常に興味深いと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2017年の研究により、ワイルド(WT)マウスでは、Val欠乏餌の摂食によって、内臓脂肪重量が著しく減少し、同時に肝臓のEnho mRNA発現が有意に増加した。対照的に、ob/obマウスでは、Val欠乏餌を摂食によって、体重が有意に減少するにもかかわらず、内臓脂肪重量に変化が認められなかった。また、ob/obマウスでは、Val欠乏餌の摂食による肝臓のEnho mRNA発現の増加は引き起こされず、WTマウスと比較して低レベルなままであった。Enhoは肝臓と脳に発現しており、分泌ペプチドAdropinをコードする。Adropinの腹腔内投与は、FasやScd1などの脂質生合成に関与する遺伝子の肝臓における発現を抑制する。以上の結果から、WTマウスにおいて、AdropinがVal欠乏餌の摂食による脂質代謝の変化に関与している可能性、さらに、ob/obマウスでは、Enho mRNA発現の上昇が引き起こされないために、Val欠乏餌の摂食による内臓脂肪の減少が起こらない可能性が推測される。もしそうであれば、ob/obマウスでは、Adropin投与により、Val欠乏餌の摂食による内臓脂肪の減少が促進される可能性が考えられる。そこで2018年度では、これらの可能性を検討するために、ob/obマウスにControl餌、Val欠乏餌、Pair fedの各条件で15日間給餌し、給餌6日目から15日目までの10日間、Adropinを0.10nmol/g BW/dayの用量で腹腔内投与し、肝臓、精巣周囲の白色脂肪(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)の重量、血液の生化学パラメータ、および肝臓における脂質代謝関連遺伝子の発現への影響を調べる。
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