研究課題/領域番号 |
17K19329
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
乾 隆 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (80352912)
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研究分担者 |
石橋 宰 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (70293214)
西村 重徳 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 助教 (90244665)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | イヌアレルギー / リポカリンアレルゲン / IgE / X線結晶構造解析 / エピトープ |
研究実績の概要 |
近年,Ⅰ型アレルギーであるイヌアレルギーの患者数が急増している。我々は,IgE抗体との結合親和性を低下させた低アレルゲン化ワクチンを開発し,重篤な副作用であるアナフィラキシーを引き起こすことなく,アレルゲン免疫療法によりアレルギー反応を寛容化に導くことを目指している。 本研究では,同定されている7種のイヌアレルゲンの中で最もアレルゲン活性が高いCanis familiaris allergen 1(Can f 1)と,他の動物由来アレルゲンとのアミノ酸配列相同性が高く,交差反応性を有することが報告されているCan f 6の2種のアレルゲンを研究に用いる。 当該年度は,昨年度X線結晶構造解析により得られた遺伝子組換え型Can f 6の立体構造をもとに,ネコアレルゲンのFel d 4との三次構造および配列類似性を考慮して交差反応性に関与している可能性がある3箇所のIgE認識部位を予測した。次に,予測した部位の連続したアミノ酸3残基をそれぞれアラニンに置換した3種類の変異体Can f 6(mu-1, mu-2, 及びmu-3)を作製した。そこで、これら変異体のIgE反応性を調べたところ,顕著に減少した。しかし,IgE反応性低下の程度は, 変異を導入した部位や使用した血清に大きく依存することが判った。Can f 6は複数のエピトープを含むアレルゲンであり,Can f 6反応性血清にはCan f 6エピトープを認識するIgEが様々な量で含まれると考えられる。また,予測したエピトープがFel d 4に対するIgE交差反応性に部分的に関与していることを明らかにした。 作製した変異体によるIgE反応性の低下は,Can f 6が構造を維持しているか否かに大きく依存しており,Can f 6が正しい三次構造を形成していることがIgEエピトープとして働くために重要であるということを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度実績よりCan f 1のArg152がIgE結合性に重要であることが示唆されたためin vitroのIgE反応性を調べたが,顕著なアレルゲン活性の低下が認められなかった。そこで、Can f 6と同様に交差反応性を利用したIgEエピトープの予測を行った。Can f 1は,human tear lipocalin (hTLC) と60%の相同性を有し,且つネコアレルゲンFel d 7と交差反応性を示すことが報告されている。本研究では,Can f 1, Fel d 7, 及びhTLC間でシークエンスアラインメントを行い,それらのデータをもとにIgEエピトープ予測を行い,予測された連続するアミノ酸5残基をアレルゲン活性のないhTLC型に置換したCan f 1変異体(Can f 1 Mu1 ~ Can f 1 Mu4)の作製を行った。患者血清を用いたIgE結合親和性の評価を行ったところ,Mu3において大きく親和性が低下しており,Mu3の置換領域が主要IgEエピトープであることが示唆された。 一方,Can f 6は,X線結晶構造解析により得られた立体構造をもとに,Fel d 4との三次構造および配列類似性を考慮して交差反応性に関与している可能性がある3箇所のIgE認識部位を予測し,連続したアミノ酸3残基をそれぞれアラニンに置換した3種類の変異体Can f 6(mu-1, mu-2, 及びmu-3)を作製した。IgE反応性を調べたところ顕著な減少がみられたが,低下の程度は変異を導入した部位や使用した血清に大きく依存した。従って,Can f 6は複数のエピトープを含むアレルゲンであり,Can f 6反応性血清にはCan f 6エピトープを認識するIgEが様々な量で含まれると考察された。以上の成果は,Scientific Reports, 9(1), 1503, 2019年に報告した。
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今後の研究の推進方策 |
Can f 1については, Can f 1変異体Mu-3を用いたアレルギー免疫療法の評価を行う。野生型Can f 1をアジュバンド(水酸化アルミニウム)と共にマウス腹腔内に投与することにより免疫感作を行い,イヌアレルギーモデルマウスを作製する。免疫感作終了後,Mu-3をマウス腹腔内に投与し,末梢血を採取する。末梢血中の抗体,及び各種サイトカインを定量するとともに,可能ならばフローサイトメトリーを用いてCD4+CD25+T細胞(制御性T細胞,Treg)の割合を測定し,イヌアレルギーモデルマウスにおける免疫寛容の誘導(アレルゲン免疫療法の効果)の有無を確認する。Can f 1の結晶化については,引き続き結晶化条件を検討する。結晶化条件の検討は,Can f 6の結晶化条件を参考にし,HAMPTON社の結晶化スクリーニングキットを用いて行う。 一方,Can f 6については,RS-ATL8を用いた野生型および変異型Can f 6(mu-1, mu-2, 及びmu-3)のin vitroアレルゲン活性の評価を行う。さらに,可能ならば,変異型Can f 1を用いたアレルギー免疫療法の評価と同時に,変異型Can f 6を用いたアレルギー免疫療法の評価も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において、当初予定よりも実験が順調に進んだ結果、消耗品にかかる支出を大幅に削減することができたため次年度使用額が生じた。 さらに研究を進めるために、これらの次年度使用額と次年度予算を合わせて新規技術員の雇用予算に充てる予定である。
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