研究課題/領域番号 |
17K19334
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研究機関 | 一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター) |
研究代表者 |
佐藤 圭一 一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター), 総合研究センター 動物研究室, 上席研究員 (80721745)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | ホホジロザメ / 繁殖学 / 人工子宮 / ネズミザメ目 |
研究実績の概要 |
本研究は、国際的に保護対象種とされるホホジロザメの人工哺育をめざし、子宮内の胎仔を人為的に育成する環境を再現することを目的としている。2019年度は、ホホジロザメおよび本種の近縁種であるネズミザメの子宮を用いて、子宮内の基礎的情報の収集を主として調査を実施した。ホホジロザメに近縁なネズミザメ目魚類の子宮サンプルを採集するため、2019年度9月から12月にかけて、宮城県気仙沼魚市場においてネズミザメ妊娠個体のサンプリングを実施した。妊娠中期以降と思われるメス個体および胎仔については、過去の調査によりサンプル採取を終えたが、妊娠初期のサンプル採取は組織学的研究に耐えうるものが採集できなかった。これまでの調査により、1)東北地方沿岸ではおよそ9月以降に交尾、妊娠が開始され、3-4月にかけて出産を行うこと、2)妊娠後期の子宮はホホジロザメのものと類似していること、3)妊娠期間が半年程度と極めて短いこと、4)子宮内の環境や子宮上皮組織についてもホホジロザメと類似することが判明した一方、ネズミザメの妊娠期間が他のサメ類と比較しても非常に短いこと、および妊娠初期の組織分泌による栄養供給が無い(あるいは極端に短い)ことが示唆された。また、2019年度2月には、沖縄県内の定置網に全長4mのメスのホホジロザメが混獲されたが、妊娠が認められなかったことから、タグ付け放流を想定した輸送・放流試験を実施し、可能性が実証された。 これまでの研究で得た知見に基づき、子宮内環境に近似する浸透圧、pH、溶存物質をもつ人工的な子宮内液を調整し、妊娠後期の子宮内環境を滅菌状態で再現した“人工子宮”に関しては既に設計、製作を終了し、卵黄依存型のトラフザメを用いた運用試験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ホホジロザメの人工哺育をめざし、子宮内の胎仔を人為的に育成する環境を再現することを目的としており、生理学的研究や生態学的研究に基づく基礎的知見の収集と、それを応用した人工子宮の完成を目指している。過年度の研究により、妊娠後期の子宮内環境に関する基礎的知見はほぼ得られており、発生後期の胎仔を哺育するための子宮環境については再現が可能な状況にある。妊娠後期のネズミザメ類の子宮上皮組織は、胎仔の衝撃吸収と内液への酸素供給に特化しており、それらの機能と無菌環境の再現による人工子宮装置の制作を行い、既にトラフザメなど複数種の胎仔を用いた実証試験を行っている。その結果、子宮内において酸素消費量をモニタリングすることが可能となったほか、長期間の哺育に耐えうることが実証された。 一方、ホホジロザメ自体の採集は非常に困難であるため、今年度は宮城県気仙沼市におけるネズミザメ(多数)、および沖縄におけるアオザメ(1個体)の採集を行い、ホホジロザメの代替となるサンプルを用いて研究を進めた。また、妊娠したホホジロザメへのアーカイバルタグの装着については、現状で装着機会を得ていないが、2020年2月に沖縄県内で混獲された全長4mのメスのホホジロザメを用いて、タグ装着~沖合への輸送、放流までの一連の過程をシミュレーションすることが出来た。今後妊娠個体が捕獲された場合には、超音波画像による妊娠確認の後、ポップアップタグを装着し、放流調査を実施することとしている。 また、本研究の意義や結果については、多大な協力をいただいた気仙沼市漁協をはじめとする三陸沿岸の市町村の皆様に対して、講演会を実施することにより知識の普及、還元を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の方針として、新型コロナウイルスの感染拡大による未達成事項の継続を行う。具体的には、ネズミザメをモデルとした繁殖生理学的研究、およびホホジロザメの繁殖生態学的研究(アーカイバルタグによる追跡)、人工哺育装置の実証試験の継続、以上の3つの課題を中心に研究を行う予定である。具体的計画として、1)妊娠初期のネズミザメの子宮サンプルを得るため、可能な限り年度の早い時期(夏~秋)にサンプル採取を実施、妊娠初期の子宮内環境について基礎的知見の積み上げを図る。2)これまで得られたデータをもとに、子宮内環境を得るための液体の開発、人工子宮、哺育装置の実証試験を行い、2020年度中に比較的入手しやすい任意の種を用いた長期間の飼育実験を行う。3)ホホジロザメの混獲個体が得られた場合を想定し、ポップアップアーカイバルタグの装着、個体の保定作業、放流作業に関わる機材の準備を行う。 また、本研究で得られた知見は、日本板鰓類研究会シンポジウムで専門家に広く公表すると同時に、今後の研究継続と協力体制を構築する予定。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定していた三陸沿岸でのネズミザメ採集および漁協での水揚げ調査のうち、3月6日―9日に予定していた調査が、新型コロナウイルスの感染拡大による職員の安全確保のため中止となった。また、三陸各地で予定していた普及啓発活動に関しても、全ての行事を中止するよう行政からの要請を受け、次年度に延期することとした。 以上の理由により、3月の調査予定を、次年度の早い時期(9-10月期)に変更して実施する予定。
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