本研究は、国際的に保護対象種とされるホホジロザメの人工哺育をめざし、子宮内の胎仔を人為的に育成する環境を再現することを目的としている。これまで、ホホジロザメおよび本種の近縁種であるネズミザメの子宮を用いて、子宮内の基礎的情報の収集を主として調査を実施してきた。ホホジロザメに近縁なネズミザメ目魚類の子宮サンプルを採集するため、2019年12月以前の3年間にわたり、宮城県気仙沼魚市場においてネズミザメ妊娠個体のサンプリングを実施すると同時に、沖縄美ら海水族館内に人工子宮装置の試作機を作成、胎仔の飼育実験を行った。 2020年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、ネズミザメ類のサンプリング実施が中止となったため、人工子宮装置の完成度を高めるための試験的調査を中心に実施した。 これまでの調査により、1)東北地方沿岸ではおよそ9月以降に交尾、妊娠が開始され、3-4月にかけて出産を行うこと、2)妊娠後期の子宮はホホジロザメのものと類似していること、3)妊娠期間が半年程度と極めて短いこと、4)子宮内の環境や子宮上皮組織についてもホホジロザメと類似することが判明した一方、ネズミザメの妊娠期間が他のサメ類と比較しても非常に短いこと、および妊娠初期の組織分泌による栄養供給が無い(あるいは極端に短い)ことなどから、ホホジロザメの繁殖が特異である可能性が示唆された。 研究で得た知見に基づき、多くのサメ類に共通した子宮内環境を人為的に再現するため、無菌状態を保持しながら浸透圧、pH、溶存物質を調整した“人工子宮”を設計製作し、卵黄依存型のトラフザメ、ヒレタカフジクジラ(ツノザメ目)を用いた胎仔の人工哺育実験を実施した。また、将来的に子宮ミルクの供給や栄養卵の供給にも対応するため、装置の設計を行った。
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