研究課題/領域番号 |
17K19335
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
廣瀬 哲郎 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 教授 (30273220)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | ノンコーディングRNA / RNA結合タンパク質 / 液体相転移 / プリオン様ドメイン |
研究実績の概要 |
本年度は、in vitroにおいて、RNAによって液体相転移(LLPS)が効率よく誘導できる系の改良を第一の目標として研究に取り組んだ。RNAの効果を効率よく発揮させるために、磁気ビーズにRNAをコンジュゲートさせ、ビーズ周辺にRNAが高濃度で存在する「環境」を形成させることによって、細胞内の核内構造体形成環境を模すことにした。用いるRNAとしては、in vivoにおいて、LLPSを介した核内構造体形成を担うNEAT1 lncRNAの機能ドメインとして実施者が同定した領域由来のRNA断片とそのアンチセンスRNA断片を用いた。これらのRNAをビオチン化しビーズ上に固定化したものを用意し、そこにHeLa細胞核抽出液と混合した。その結果、機能ドメイン由来のRNAを用いた場合、多数のビーズ同士が集合した大きな凝集壊が形成された。この結果は、RNAビーズ周辺で誘発されたLLPS様相転移によって凝集壊が作られたことを意味している。またこの凝集壊は、アンチセンスRNAでは形成されず、またLLPSに対して阻害的に作用する1,6-hexanediol(1,6-HD)処理によって解離することが明らかになった。一方で、LLPS誘導条件下で、ビーズ上のRNAに結合しているタンパク質を検出したところ、複数のプリオン様RNA結合タンパク質が結合していることが明らかになった。これによって、ビーズ上のRNA環境を利用したin vitro LLPS様相転移誘導系をセットアップすることができたと考えられる。今後、この系を利用して様々なLLPS関連解析に展開していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
LLPSを誘導するRNAの作用機構とそのエフェクター配列を明らかにするために必要であったin vitroで安定してLLPSを誘導できる系を、RNAをビーズ上に固定しRNAが濃縮した環境を作り出すことによって可能にした。これによって、当初計画していたRNAの作用機構解析、配列特性の解析などを効率よくかつ信憑性高く実施することが可能になると考えられる。in vitroにおけるLLPS誘導は、in vivoにおいてLLPS構造体の形成に必須な領域として、実施者が同定した領域に由来したRNAを用いており、in vivoでの機能配列をin vitroでも機能させられたことが示唆される。さらに同時に、アンチセンスRNAに誘導活性がないことや1,6-HDによってLLPSが解消されることなど、重要なコントロール実験の条件至適化にも成功した点も重要な成果と言える。一方で、LLPSが誘導されている条件下で、複数のプリオン様タンパク質がRNAに結合していることを確認しており、タンパク質因子の側からもLLPS誘導機構についてアプローチできる準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
今回セットアップしたin vitro LLPS様相転移誘導系を利用して、様々なarcRNA由来のRNA断片を用いたLLPS誘導実験を行い、LLPS誘導性RNAを選別していく。さらにLLPSに関わるタンパク質因子を同定し、それらがどの様にLLPSを誘導するのか、またRNAがどの様な役割を果たしているのかを明らかにする。一方で、こうして同定されたタンパク質のCLIP-seqデータから、これらのタンパク質の結合RNAを明らかにし、その結合配列を持つRNAを用いてLLPS誘導能を検討する。最終的に最も効率良いLLPSを誘導できるRNA配列ルールを確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、in vitroにおけるLLPS誘導系の開発に注力し、新たに磁気ビーズにコンジュゲートさせたRNAと細胞核抽出液を混合させることによってビーズが凝集する様子を観察する系を開発することができた。これによって、in vitro反応系のスケールが当初予定したものよりも小さくてすみ、またRNAの蛍光標識なども必要なくなったために、これらに計上していた試薬費が次年度に繰り越された。次年度は、この様に開発された簡便かつ鋭敏なin vitro LLPS誘導システムを活用して、LLPS誘導活性のあるRNA断片を選別する実験を計画している。このためには、様々なRNA配列を大量に合成する必要があり、そのために多くの消耗品費が必要となるため、今年度繰り越した予算をそこに充てる予定である。
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