研究課題/領域番号 |
17K19338
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
田村 康 山形大学, 理学部, 准教授 (50631876)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 人工酵素 / リン脂質 / 出芽酵母 |
研究実績の概要 |
本研究では大腸菌のホスファチジルセリン(PS)合成酵素PssAを改変し,本来の基質であるセリンの代わりに蛍光性基を導入したセリンを認識する酵素の創出を目指している。今年度はまず,大腸菌にランダム変異を導入したPssA遺伝子を持つ発現プラスミドを導入し,変異PssA発現大腸菌ライブラリーを作製した。この大腸菌ライブラリーをコロニーピッカーを利用して384プレートに植菌し,蛍光性セリンを脂質に取り込むPssA変異体のスクリーニングを開始した。具体的には384本のチップを同時に操作できるマルチピペッターを用いて,384プレート上で蛍光性セリンが脂質画分に取り込まれているかを調べた。しかし現在のところ,384プレート上での脂質抽出操作が想定していたよりも技術的に難しく,蛍光性セリンを基質として認識するPssA変異体の単離には至っていない。 一方,PssAを酵母細胞内の様々な区画に発現させ,酵母のPS合成酵素(Cho1)の欠損を相補できるかを確認したところ,小胞体に発現させたPssA以外にも,ペルオキシソームや脂肪滴に標的化させたPssAが,Cho1の欠損を相補できることを見出した。これら結果から,出芽酵母細胞を変異PssA発現ライブラリーとして用いることを着想し,現在は酵母細胞を用いたスクリーニング実験系の構築を行っている。具体的には酵母の変異PssA発現ライブラリーを蛍光性セリンを加えた培地で培養する。この細胞集団を洗浄後セルソーターにかけて,蛍光強度が高い細胞集団を選別し濃縮していく。この作業を繰り返すことで蛍光性セリンを基質として認識できるように改変されたPssA変異体が単離できると期待される。大腸菌を用いた場合ではコロニー一つ一つを扱わなければならなかったが,この方法では数百万個の細胞を一気に選別できるため,スクリーニングの効率も飛躍的に高まることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸菌のホスファチジルセリン(PS)合成酵素PssAを改変し,蛍光性セリンを認識する人工酵素を創出するために,今年度は大腸菌を用いて,変異PssAライブラリーを作製し,スクリーニングを行った。しかしながら,384プレート上での脂質抽出操作が想定していたよりも技術的に難しかったため,スクリーニング実験が順調に進行しなかった。しかしその一方で,出芽酵母細胞を用いたスクリーニング実験系を着想し,研究の方向転換を行うこととなった。出芽酵母細胞を用いることにより,大腸菌の場合には必要であったIPTG添加によるPssAの発現誘導の作業が不要になったことや,セルソーターによる細胞集団のソーティングが可能になり,細胞から脂質を抽出する作業も不要になったことから,スクリーニングの効率が飛躍的に上昇することが予想される。大腸菌を用いていた場合は,コロニー一つ一つを個別にピックして384プレート上で扱わなければならなかったのに対し,セルソーターを用いる方法では,数百万個の細胞を一気に選別できるため,スクリーニングの効率も飛躍的に高まることが期待される。実際に出芽酵母細胞にGFP融合タンパク質を発現させて,所有するセルソーターでGFP蛍光を基準に細胞をソーティング出来るかを確認することが出来た。この結果より,変異PssAの発現に依存して,蛍光性セリンを細胞内に蓄積する細胞集団をソーティング,濃縮することで,順調にスクリーニングが進展すると考えられることから,おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,蛍光性セリン存在下で培養した変異PssA発現酵母細胞ライブラリーをセルソーターを用い,蛍光性セリンを細胞内に蓄積した細胞集団をソーティング,濃縮する。蛍光シグナルを指標に濃縮した集団を顕微鏡下で観察し,実際にサイボの膜構造が蛍光ラベルされているかを検討する。その後細胞からプラスミドDNAを回収し,PssAの配列をシーケンスすることで,蛍光性セリンを基質として認識できる人工酵素の単離を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた大腸菌によるスクリーニングを中断したために,見込んでいた384本セットになっているチップカセットの購入などを取りやめた。翌年度に出芽酵母細胞をセルソーターで分離する新たな実験を行うために,セルソーターに関する消耗品などに使用する。
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