研究課題/領域番号 |
17K19339
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
久武 幸司 筑波大学, 医学医療系, 教授 (70271236)
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研究分担者 |
西村 健 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (80500610)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 代謝変換 / ミトコンドリア / 解糖系 / iPS細胞 / ROS / MitoTracker |
研究実績の概要 |
代謝変換に伴う活性酸素(ROS)産生をモニターするために、MitoSox Red Mitochondrial Superoxide Indicator(Thermo Fisher)でiPS細胞と体細胞(マウス胎児繊維芽細胞)を染色すると、MEFに比較してiPS細胞誘導中の細胞では蛍光が強く観察された。これより、iPS細胞誘導途上の細胞ではROS産生が亢進していると考えられる。次に、Oct4、Sox2、Klf4及びc-Mycに加えてTcl1を発現するセンダイウイルスベクターで誘導したiPS細胞と、Oct4、Sox2、Klf4及びc-Mycのみで誘導したもので、ROS産生を比較したところ、Tcl1を追加して誘導した場合にROSの産生量が減少していることが示された。これより、Tcl1により、ミトコンドリアによる呼吸から解糖系中心への代謝変換が容易に起こり、ROS産生を介した代謝変換をバイパスしている可能性が示唆された。 Oct4、Sox2、Klf4及びc-Mycを発現するセンダイウイルスベクターでiPS細胞を誘導し、誘導初期のミトコンドリア活性をMitoTracker(Thermo Fisher)による染色と酸素消費量の定量によって検討した結果、ミトコンドリア活性と酸素消費量はどちらも誘導4日後では体細胞(マウス胎児繊維芽細胞)と同等であるが、それ以降は体細胞よりも低下することが分かった。他の研究グループがレトロウイルスベクターでiPS細胞を誘導した系で報告している、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化の一時的亢進は、センダイウイルスの誘導系では誘導4日目よりも前に起きていると考えられる。これは、センダイウイルスの誘導系がより早く細胞のリプログラミングを引き起こすためと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究より、レトロウイルスを用いた誘導系とセンダイウイルスの誘導系について、どちらも代謝変換が認められたが、その進行具合に多少差があることが分かった。また、センダイウイルスの誘導系でリプログラミング中の細胞が、どの時期にどの様な代謝を行っているか把握することができた。また、センダイウイルスの誘導系でも、レトロウイルスの誘導系と同様に活性酸素産生が増加し、この活性酸素増加はTcl1を発現させることで、抑えることができることも確認できた。以上の研究成果によって、どの様な条件で誘導した細胞をどの時期に回収し、そのゲノムの変異を解析するべきかについて、明確な方針を立てることが可能となった。以上より、ゲノム配列決定に必要な情報がほぼ得られたため、研究は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
センダイウイルスを用いたiPS細胞誘導系で、誘導後4日以内の細胞を回収し、ROS産生の変化をより詳細に確認する。またその時期に、酸化的リン酸化の一時的亢進が起きているかも検証する。また、Oct4、Sox2、Klf4及びc-Mycを発現するセンダイウイルスベクターとこれら4因子に加えてTcl1を発現するベクターでiPS細胞を誘導し、誘導初期のROS産生量に変化が起きているか検証する。 これらの過程で誘導されるiPS細胞の中間体細胞を誘導初期(4日目以前と4日目以降)、誘導中期(マーカーの発現で決定する)および誘導されたiPS細胞について、ゲノムDNAを回収し、次世代シークエンサーにて塩基配列を決定する。そのさいに、変異の頻度、変異の種類、変異の場所(遺伝子内か遺伝子間か、タンパク質コード領域かどうかなど)の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費の大部分は次世代シークエンサーの経費となるが、一年目の研究では代謝変換やROS産生の時期を詳細に明らかにするための実験を優先した。これらの経費は比較的小額の試薬であるために、一年目の研究費使用学が予想よりも少なくなった。次年度は、次世代シークエンサー用の試薬を多く購入するので、繰り越した研究費と2年目に予定していた研究費を合わせた金額が必要である。
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