MitoSox Red Mitochondrial Superoxide Indicator (Thermo Fisher) を用いてiPS細胞誘導における活性酸素(ROS)産生量をモニターした結果、体細胞(MEF)と比較してiPS細胞では蛍光が強く観察された。このことより、センダイウイルスによるiPS細胞作製過程でも、すでに報告されているレトロウイルスの系と同様にROS産生が亢進していると考えられた。 他の研究グループによって、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化が、iPS細胞誘導初期に一時的に亢進するという報告がある。そこで、センダイウイルスの系でも、酸化的リン酸化亢進によってROS産生量がiPS細胞誘導の初期に増加しているか検証した。その結果、誘導1から7日後には顕著な増加は確認されなかった。センダイウイルスの系では、iPS細胞誘導過程におけるROS産生量の増加は、iPS細胞誘導の後期にのみ起きていることが示唆された。また、山中4因子+Tcl1で誘導したiPS細胞では、通常の4因子で誘導したiPS細胞と比較してROS産生量が減少していた。このことから、誘導後期に起こるROS産生の亢進に対し、Tcl1は抑制的に働くことが考えられる。 既に我々が報告しているように(Nishimura K et al. 2017 Stem Cell Reports)Tcl1はiPS細胞誘導後期において、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を抑制する働きがある。よって、このTcl1による酸化的リン酸化抑制がROS産生抑制に関係していることが予想される。今後は、ROS産生量の違いによって、誘導されたiPS細胞中のゲノムDNA変異量が異なるのか検証し、もし違いがあった場合、Tcl1を用いたゲノム変異の少ないiPS細胞産生が可能であるか検討する必要がある。
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