研究課題/領域番号 |
17K19341
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 善文 東京大学, 教養学部, 特任研究員 (60391877)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 脂質 / 光遺伝学 / S1P / PIP3 |
研究実績の概要 |
細胞膜を構成する脂質分子は、細胞内外の隔離機能のみならず、一過性に細胞膜の局所で産生され、細胞内シグナル伝達を誘導する。さらには、細胞外にも放出されパラクライン作用を示すため、極めて多岐に渡る細胞応答を制御する。従来までの脂質の量をコントロールするための手法として、脂質産生および分解酵素の阻害剤やRNA干渉法が用いられてきたが、空間的および時間的な制御の精度の甘さが、脂質の機能を正確に理解するうえで克服すべき問題であった。 本研究では従来の問題点を克服する光遺伝学ツールを用いて、脂質分子を時空間的に高精度に産生し、細胞内外での脂質の機能を明らかにする「脂質光遺伝学」の確立を目指す。 光受容体、CRY2を基にした光遺伝学ツール(PPAP1.0)を開発し、青色光依存的に機能性脂質分子、ホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(PIP3)を産生することを、PIP3シグナルの下流に存在するAktタンパク質のリン酸化の増加を指標に明らかにした。さらに、一細胞に局所的に青色光を照射することで、その領域のみでPIP3を産生させ、ラメリポディアや細胞膜の伸展を誘導することができた。超解像顕微鏡(SIM)を用いることにより、アクチンの微細な構造を込みにした細胞膜の拡大およびラッフルを観察することも可能にした(Anal Sci. 2019 Jan 10;35(1):57-63.)。 その他の機能性脂質分子、スフィンゴシン一リン酸(S1P)に関しては、現在、さまざまな光受容体を基にした光遺伝学ツールを作製しながら、感度を向上を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は光によって高時間分解能で細胞内に脂質分子を産生するための技術、即ち「脂質光遺伝学」の確立を目指している。まず初めに、sphingosine-1-phosphate(S1P opto)を光依存的に産生する光遺伝学ツールの作製に取り組み、CRY2を基にしたS1P optoを作製し、HEK細胞に導入し、青色光を照射し、S1Pを質量分析器で測定した。その結果、青色光を照射していないコントロール細胞に比べて、S1Pを産生することがわかった。現在、S1P産生能を改善すべくPhototropin1を基にしたS1P optoを作製するなど、S1P optoの改良を行っている。 また、機能性脂質PIP3を光によって細胞内で誘導するために、cryptochrome2(CRY2), phototoropin1, Magnetを始めとした、青色光を感受して、その性質を変化させる光受容体を利用して細胞レベルで青色光依存的にPIP3を産生させる光遺伝学ツールの作成に取りかかった。 CRY2を基にした光遺伝学ツール(PPAP1.0)が、青色光依存的にPIP3を産生することを、PIP3シグナルの下流に存在するAktタンパク質のリン酸化の増加を指標に明らかにした。さらに、一細胞に局所的に青色光を照射することで、その領域のみでPIP3を産生させ、ラメリポディアや細胞膜の伸展を誘導することができた。こちらをまとめて報告することができた(Anal Sci. 2019 Jan 10;35(1):57-63.)
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今後の研究の推進方策 |
上記のS1P optoやPPAP1.0を、細胞レベルのみならず、マウスなどの個体の脳や肝臓を始めとした様々な器官、また、精神疾患病および癌などに応用したいと考えている。その準備として、2光子顕微鏡を用いて、生体内イメージングを進めている。 まずは、がん研究に着手しており、特にがん細胞転移巣形成メカニズムの解明のための研究を進めている。緑色蛍光タンパク質(GFP)を定常的に発現させた悪性リンパ腫 (EL4-EGFP細胞)を、マウスに導入し、大腸、肝臓、骨髄などに転移巣を形成することがわかった。よって、まずは、大腸での転移巣形成メカニズムを明らかにし、2光子顕微鏡を用いて、一細胞レベルでの大腸でのEL4-EGFP細胞の動態解析を行ったところ、従来定説となっているがん転移巣形成モデルのみならず、様々な転移巣の形成が観察され、がん細胞の転移巣形成メカニズムは複雑であることを証明した(Ueda Y. et. al (Corresponding author)Sci Rep. 2018 Mar 5;8(1):3978.)。 よって、今後は、S1P optoおよびPPAP1.0を発現したメラノーマ細胞などをマウスの皮下などに移植して、青色光有無によって、形成される腫瘍が如何に変化するのかを明らかにしていく予定である。さらに、腫瘍の周辺の微小な転移巣を2光子顕微鏡で観察することも行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、予想よりも研究費を使用する必要がなかったため、次年度使用額が0より大きくなった。本申請の研究「脂質光遺伝学の確立」は、まだ、今後も進めていく研究テーマであるので、翌年度も引き続き研究を進めていくために、翌年度に研究費を補填する。行う研究内容は、本研究で進めていた脂質分子のみならず、その他の脂質分子をターゲットにする。また、光遺伝学ツールを培養細胞レベルのみならず、マウスの組織および個体へ応用していく。そのため、細胞培養実験及びマウスの購入費などの消耗品に使用する予定である。。また、翌年度より研究場所を変えたために、研究を行うに遂行するための顕微鏡などの機器の運搬費用に充てる予定である。
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