生体膜を構成する極性脂質には数千を超える分子種が存在するが、生物がこれほどまでに多様な脂質分子を利用する意義は未だに不明である。本研究では、シアノバクテリアが外部から脂質分子を容易に取り込む性質を利用し、シアノバクテリア内で様々な機能や生理活性を発揮する脂質分子のケミカルスクリーニングを行うことで、これまで予想もされなかった脂質分子の新規機能の発見と解明を目指す。本研究では特に、光合成に必須の役割を担うホスファチジルグリセロール(PG)を解析する。 研究は2つのグループにより行っている。安部グループはリン脂質全合成法を用いたPG類の人工合成を担い、小林グループは合成されたPGを用いたシアノバクテリア内での生理活性テストを担当する。これまで、安部グループによる化学合成の結果、PGの脂肪酸の炭素鎖長を改変し、二重結合の位置や数も様々に変更した分子種を得ることができた。また、PGと性質の近いカルジオリピンにおいても、多様な分子種を合成することに成功している。小林グループが進める研究では、安部グループにより合成されたPGアナログを用いた解析を進めた。その結果、飽和脂肪酸型のPGによりPG合成欠損変異体でクロロフィルの分解が急速に進むことや、フィコビリソームの分解にPGが強く影響することを明らかにした。そこで、クロロフィルやフィコビリソーム分解におけるPGや飽和脂肪酸型PGアナログの関与の究明が必要となったが、そもそもシアノバクテリアにおけるクロロフィルやフィコビリソーム分解の仕組みがはっきりわかっていなかったため、その解明を目指し研究を進め、光によるクロロフィル分解の保護にカロテノイドが重要であること、フィコビリソーム分解には光合成活性や細胞の成長活性が必要であることを明らかにした。
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