平成30年度も引き続き、「核酸によるK63Ub鎖の形成促進反応」の分子メカニズムの解析を進めた。これまでの解析から、この促進反応はpHに大きく影響されることがわかってきた。そこで最大活性が見られるpH条件下でどのような反応ステップが影響を受けているのかを解析した。その結果、Ubc13/Mms2 (E2) の核酸結合活性がこの条件下において最大となることがわかった。この発見をもとに分子メカニズムを考えると、K63Ub鎖形成促進反応はE2の核酸結合に依存して促進されると言える。そこで、E2における核酸結合部位の探索では、pHで影響を受けるアミノ酸を中心に変異を導入し進めた。一方で、細胞内での解析においては、pHによる反応制御を視野に入れつつ解析を進めた。細胞内では局所的なpHの違いや、ストレス応答などでもpH変化が存在することは知られている。このような環境下では、pHによるタンパク質の活性制御も存在するであろう。核酸結合タンパク質の活性制御にもpH環境が関わる可能性を考え、in vitroにおいてE2によるUb鎖伸長促進の他に、核酸結合タンパク質がpHによる活性制御を受けるケースがあるのかどうかを検討した。その結果、DNA修復・組換えに働くRad51や染色体構造に関わるcohesinのin vitro反応においてもpHによって活性が大きく影響されることがわかった。以上の結果は、本研究の目的である「核酸によるK63Ub鎖形成促進反応」のメカニズム理解において大きな進展であり、さらにユビキチン分野を超えて、タンパク質機能のpHによる制御機構の理解にまで発展する成果を生み出せたと言える。
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