研究課題
タンパク質や核酸といった生体分子の多くは、それらに内外から働く張力や圧縮力といった力学的な負荷によって、機能発現や反応速度が変調されていることが知られてきている。高速AFMで観察中の生体分子に力学的負荷を加えられれば、その変調のメカニズムを詳細に理解できることが期待される。そこで、生体分子に外力を与えながらAFM観察ができるように、新規高速AFM用スキャナーシステムの開発に取り組んでいる。従来のイメージング用スキャナーと独立で動作するマニピュレーション(外部操作)用スキャナーを追加し、そのスキャナーに取り付けられたキャピラリープローブを用いて観察対象に外力を与える仕組である。上記のマニピュレーション機能が付いたスキャナーシステムの機械部と電子制御部の設計と組み立てを行い、原理検証の実験を行った。その結果、高速AFM観察を行いながら、マニピュレーションプローブで観察対象の一部をマニピュレーションすることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していたシアーモードピエゾを利用したマニピュレーション機構を試したが、この機構では、実験系の構築に高度なハンドスキルが要求されることと、大きな張力負荷を観察対象に与えることが難しいことが判明した。そこで、高速AFMのイメージング用スキャナーと同じ走査性能を持ったマニピュレーション用のスキャナーをイメージング用スキャナーの近傍に配置し、そこからマニピュレーションプローブをイメージング用スキャナーに伸ばすという実験系を作ることにした。マニピュレーション機能が付いたスキャナーシステムの機械部と電子制御部の設計と組み立てにを行い、原理検証の実験を行った。その結果、高速AFM観察を行いながら、マニピュレーションプローブで観察対象の一部をマニピュレーションすることに成功したため。ただし、マニピュレーションできたのはX方向の1軸だけで、Y軸、Z軸についてはコントロールできなかった。XYZ軸すべてにコントロールできるような工夫が必要である。
原理検証には成功したが、XYZ軸に方向に自由に張力負荷用のマニピュレーターをコントロールすることには成功していない。この原因は、マニピュレーター用のプローブの設置が実験者のハンドスキルに依存していて、プローブの先端とAFM観察用のステージとの接触状況を正確にコントールできないことにある。そのため、摩擦力が大きい方向にはマニピュレーションプローブを動作することが難しくなっている。この問題を解決するために、今後はマニピュレーションプローブとAFM観察用のステージとの接触状況を検知するシステムを導入する。また、マニピュレーションプローブの先端径は200 nm程度となっており、タンパク質レベルのマニピュレーションには程遠い状況なので、このサイズダウンを図る。また開発した実験系を用いて応用実験を開始する。
マニピュレーター付スキャナーの開発を進めたところ、当初購入を予定していた備品(ピエゾドライバー)を購入することなく、目的が実現できることが判明した。これにより、当該助成金が生じた。翌年度は、生じた助成金を合せることで、マニピュレーターに働く力を検出しながら、マニピュレーターをスキャナーにセットできるプラットフォームを導入することを計画している。
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