研究課題
タンパク質や核酸といった生体分子の多くは、それらに内外から働く張力や圧縮力といった力学的な負荷によって、機能発現や反応速度が変調されていることが知られてきている。高速AFMで観察中の生体分子に力学的負荷を加えられれば、その変調のメカニズムを詳細に理解できることが期待される。そこで、生体分子に外力を与えながらAFM観察ができるように、新規高速AFM用スキャナーシステムの開発に取り組んでいる。従来のイメージング用スキャナーと独立で動作するマニピュレーション(外部操作)用スキャナーを追加し、そのスキャナーに取り付けられたキャピラリープローブを用いて観察対象に外力を与える仕組である。昨年度までに概ね当初計画していた通りの性能を実現することができ、生体分子を高速AFM観察しながら、30 nm程度に先鋭化したキャピラリープローブで外力を加えれられるようになっていた。今年度は、開発した装置の性能を実証する試験と、装置を応用してバイオ応用研究に取り組んだ。前者では、マニピュレーターの位置制御の制度を見積もり、1nm程度でマニピュレーターの位置を制御できることが明らかになった。このことは、開発したシステムが、大きめのタンパク質であれば分子内のあるドメインを狙って分子に外力を加えられる性能を持つことを意味する。また、後者のバイオ応用研究では、AFM観察基板に並べたアクチン線維をマニピュレーターで押すことで、アクチン線維の2重らせん構造のらせん周期が外力の印加により10%程度変化することを見出した。このことは、生体分子の形状を観察しながら、その形状や機能の外力応答を調べられる装置が実現したことを意味する。
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