研究課題/領域番号 |
17K19346
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
木村 浩之 静岡大学, グリーン科学技術研究所, 教授 (30377717)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 温度適応 / 微生物 / リボソームRNA / G+C含量 |
研究実績の概要 |
昼夜で激しく温度変動する砂漠の塩湖に生息する好塩性アーキアは、ゲノム上に塩基配列が異なり、且つ、グアニン(G)とシトシン(C)の割合(G+C含量)が異なる複数種の16S rRNA遺伝子を有するが、その生理生態学的な意義や重要性は明らかになっていない。これまでの研究において、原核生物の16S rRNA遺伝子のG+C含量と至適生育温度は非常に高い相関を示すことが報告されている。そこで、本研究では「好塩性アーキアは、昼間の高温時には耐熱性を有する高G+C含量の16S rRNAを含むリボソームを機能させ、夜から早朝にかけての低温時には転写効率のよい低G+C含量の16S rRNAを含むリボソームを機能させる」という仮説を立て、これを検証した。そして、温度変動の激しい極限環境に生息するアーキアが有する新たな温度適応メカニズムを解明することを目的とした。 平成29年度は、モデル生物として異なるG+C含量の16S rRNA遺伝子を有する好塩性アーキアHaloarcula属菌株6種を選定し、理化学研究所微生物材料開発室(JCM)からこれらの菌株を購入した。次に、各菌株の細胞からゲノムDNAを抽出し、PCRクローニング法を用いて各16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定した。その後、それぞれの16S rRNA遺伝子を特異的にPCR増幅し、定量するためのプライマーセットをデザインした。また、Haloarcula属菌株を15℃から55℃までの生育温度にて培養し、それぞれの温度における各16S rRNA遺伝子の発現量を測定した。その結果、最低生育温度から至適生育温度までの低い温度条件下においては低いG+C含量の16S rRNA遺伝子が多く発現していた。一方、最高生育温度付近の高い温度条件下では、高いG+C含量の16S rRNA遺伝子が有意に多く発現していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、ゲノム上にG+C含量の異なる16S rRNA遺伝子を有する好塩性アーキアHaloarcula属菌株6種を用いて、最低生育温度から最高生育温度まで幅広い温度での菌株の培養を行った。そして、G+C含量の異なる16S rRNA遺伝子の発現量を測定し、培養温度条件と16S rRNA遺伝子のG+C含量の関係を明らかにした。その結果、最低生育温度から至適生育温度までの低い温度条件下においては低いG+C含量の16S rRNA遺伝子が多く発現し、最高生育温度付近の高い温度条件下では、高いG+C含量の16S rRNA遺伝子が有意に多く発現することが見出された。そして、「好塩性アーキアは、高温時には耐熱性を有する高G+C含量の16S rRNAを含むリボソームを機能させ、低温時には転写効率のよい低G+C含量の16S rRNAを含むリボソームを機能させる」という仮説を概ね支持する研究結果が得られた。 一連の本研究結果を英語論文にまとめ、微生物学分野の国際学術雑誌に投稿した。現在、査読中である。以上のことから、本研究課題は、概ね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
好塩性アーキア菌株を用いてリボソームRNAオペロンの欠損株を作製し、増殖速度を測定する。さらに、幅広い生育温度にて各欠損株および野生株を培養し、幅広い生育温度における増殖速度を測定する。そして、G+C含量の異なる16S rRNAを含む各リボソームの機能や重要性を明らかにする。 具体的には、ゲノム解読済みのHaloarcula属菌株を選定して、その野生株から高いG+C含量の16S r RNA遺伝子を含むリボソームRNAオペロンを欠損させた菌株と低いG+C含量の16S rRNA遺伝子を含むリボソームRNAオペロンを欠損させた菌株をそれぞれ作製する。各欠損株の作製には、リボソームRNAオペロンの前後約1,000 bpの塩基配列と薬剤耐性遺伝子を組み込んだプラスミドを作成し、これらのプラスミドを菌株に取り込ませる。 その後、各リボソームRNAオペロンを薬剤耐性遺伝子に置換する。次に、遺伝子欠損株を生育温度内で5℃間隔にて培養し、各培養温度における欠損株の増殖速度および世代時間を算出するとともに、野生株の増殖速度と比較する。 加えて、ゲノム解読済みの好塩性アーキアHaloarcula属菌株を最低生育温度に近い低温と最高生育温度に近い高温にて培養する。次に、遠心分離によって微生物細胞を集積したのち、これらの微生物細胞から全RNAを抽出する。その後、cDNAを合成したのち、次世代シーケンサーを用いて網羅的にcDNAの塩基配列を決定する。大量シーケンス解析用サーバーを用いて、遺伝子の同定、リード数の解析を行い、各サンプルを比較する。そして、温度センシングやリボソームRNAオペロンの転写制御に関与する遺伝子群の発現量を明らかにするとともに、G+C含量の異なる16S rRNA遺伝子の発現メカニズムを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は好塩性アーキア菌株の培養実験の進行状況により、網羅的RNA解析を実施しなかった。よって、次世代シーケンサーを用いたRNA解析費の使用に至らなかった。平成30年度および平成31年度においては、網羅的RNA解析を実施する計画であり、次世代シーケンサー解析費として使用する予定である。
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