研究課題/領域番号 |
17K19347
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
谷 一寿 名古屋大学, 細胞生理学研究センター, 特任教授 (20541204)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | クライオ電子顕微鏡 / 電子線結晶学 / クライオトモグラフィー / 二次元結晶 / F型ATPase |
研究実績の概要 |
天然に近い状態の膜タンパク質の立体構造を観察することは、その生理的機能を明らかにするうえで重要な知見が得られる可能性が高い。このような構造解析としては、脂質二重膜中に再構成された膜タンパク質がシート状に整然と並ぶ二次元結晶を用いた電子線結晶解析が適しているが、たとえ結晶作製に成功しても分解能が悪いことも多く電子線結晶解析に適用できないものも多々ある。本研究では、このような従来の解析方法では歯がたたなかった結晶性のよくない二次元結晶でも構造解析が行えるような方法を確立することを目標としている。 我々がテストデータとして使用する結晶性の悪いウシ・ミトコンドリア由来のF型ATPaseの二次元結晶の場合、負染色を施した非傾斜像ですらFFTした際に観察できる反射点の指数付は難しく、傾斜さえた像のFFTにいたっては反射点自体を認識することができなかったため、通常の電子線結晶学を適用することは難しかった。 そこで、まずクライオトモグラフィー法を用いて二次元結晶の傾斜シリーズデータを収集し、続いて通常のトモグラフィー法を適用して二次元結晶そのものの三次元再構成を得た。得られた再構成データ(voxel)のなかで結晶性が比較的ましな領域を三次元的に選択し、in sillicoの二次元結晶由来の投影像を作製し、電子線結晶学解析を適用することで、各反射点の振幅と位相を抽出しフーリエ合成を計算しマップを得ることができた。結晶ごとにパラメータの変更が必要なため、グラフィックインターフェース(GUI)による簡易な操作性を備えた解析統合環境の開発も併せて進めることで解析時間の短縮を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、電子線結晶学による構造解析が適用できないような結晶性の悪い膜タンパク質の二次元結晶でも、膜内の立体構造が分子レベルで観察できるようにするための構造解析手法論の開発である。 昨年度のアルゴリズム開発に引き続いて、各プロセスのプログラム処理を完成させた。当初これらプログラムはコマンドからの起動であったので、グラフィックインターフェース(GUI)を介した処理へ移行させ、統合環境の開発にも重点を置いて進めた。テストデータには、引き続き負染色したF型ATPaseの結晶性の悪い二次元結晶のデータを使用することで統合環境の評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画に則って、GUIを備えた統合環境下で負染色した二次元結晶に新規手法を適用することができた。最終的には、氷包埋した二次元結晶を用いることで天然に近い状態の膜タンパク質を観察できるようにする必要があるため、クライオトモグラフィーによるデータ収集並びに二次元結晶自体の再構成を得るようにする。氷包埋状態の再構成は染色されていないため、タンパク質由来の信号比は非常に低くなるため、in sillicoの二次元結晶由来の投影像を計算する際のプログラム改善も併せて行っていきたい。本手法により、従来見放されていた結晶性の悪い二次元結晶でも脂質膜内での膜タンパク質の構造情報を取得できるようになるため、立体構造解析の対象になることが期待される。
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