膜タンパク質の立体構造を天然に近い脂質二重膜に埋まった状態で観察することは、その生理的機能を明らかにするうえで重要であると考えられている。このような構造解析としては、ナノディスクを用いた単粒子解析法や脂質二重膜中に再構成された膜タンパク質がシート状に整然と並ぶ二次元結晶を用いた電子線結晶解析が適している。本手法は、特に電子線結晶解析に不適な分解能の低い二次元結晶からでも立体構造を計算ができるようにするための道筋を作ることを目的としている。 本年度のテストデータとして、結晶性が高くない牛ミトコンドリア由来のF型ATPaseの二次元結晶をクライオ電子顕微鏡で撮影したものを使用した。非傾斜の実像から計算したフーリエ変換パターン(FFT)にはベシクル由来の2層結晶由来の回折パターンが確認されたが、分解能が低すぎるために反射点の指数付は難しく、傾斜像のFFTにいたって氷由来のバックグラウンドが高すぎて反射点を認識することは困難であった。 昨年度同様、クライオトモグラフィー法を用いて氷包埋された二次元結晶の傾斜シリーズデータを収集し、続いてトモグラフィー法を適用して二次元結晶そのものの三次元再構成を得た。得られた再構成データ(voxel)のなかで結晶性が比較的良好な領域を三次元的に選択し、in sillicoの二次元結晶由来の投影像を作製し、電子線結晶学解析を適用することで、各反射点の振幅と位相を抽出しフーリエ合成を計算しマップを得ることができた。最終的に得られた三次元再構成像と既知ホモログ構造由来のデンシティマップとの比較の結果、高い相関が認められたため、解析手法の正当性を評価することができた。
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