研究課題/領域番号 |
17K19354
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
山下 敦子 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (10321738)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 味覚受容体 / 生殖 / 発生・分化 / 遺伝子編集 |
研究実績の概要 |
味覚受容体遺伝子T1r3をCRISPR/Cas9法によりノックアウトしたG0メダカが産卵し、発生時に異常が確認されたF1世代の胚および稚魚と、同じノックアウトメダカが産卵し、通常の表現型で発生した胚および稚魚について、ジェノタイピングを実施した。その結果、発生時に異常が確認された個体で見られたindel変異と、通常の表現型で発生した個体で見られたindel変異は、基本的に同一のものであったことから、味覚受容体のノックアウトによる発生時の異常は、導入された変異の種類によらず起こることを明らかにした。 F1世代で確認されたindel変異のうちの2種類は、フレームシフト変異で、その他の変異は偽遺伝子化を引き起こす変異であった。これらの変異は受容体の細胞外領域に導入されていたため、フレームシフト変異のうちの1種類を導入した変異体を作製し、昆虫培養細胞を用いて細胞外領域部分の組換え発現を行った。その結果、野生型と同様に分泌発現が見られることを確認し、フレームシフト変異体についても、ある程度の受容体構造を保って発現している可能性を見出した。 これらの変異体についてそれぞれ系統化を試みた。しかしながら、F1, F2世代ともに、繁殖能自体は有していたものの、野生型と比較し死亡率が高く寿命が短い傾向が見られ、本年度内に系統化を達成できなかった。そこで、drRとCabの2系統について、課題開始前に行ったのと同様の方法で受精卵にgRNAのインジェクションを実施し、T1r3のノックアウトメダカをさらに追加作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、発生時に異常が見られた味覚受容体T1r3遺伝子ノックアウトメダカについてジェノタイピングを実施し、変異の導入部位、変異の様式およびフレームシフト変異の場合の発現タンパク質の性状について明らかにした。これらの結果をもとに、発生時に異常が発生するか通常の表現型で発生するかは、導入された変異の種類によらず決定されることを明らかにした。これらの項目に関しては、本年度の実施項目の目標を達成できており、研究が順調に進捗していると言える。 一方、ここから先に研究を進め、味覚受容体変異がどのように発生異常を引き起こすかを解明していくためには、これらの変異体の系統作製が重要であるが、残念ながら年度内の系統作製には至らなかった。この原因として、当初には十分予期ができていなかったことであるが、味覚受容体ノックアウトメダカが野生型と比較し死亡率が高く寿命が短いことが判明し、順調な交配が進まなかったことが挙げられる。また、これまで研究代表者にメダカ飼育実験の経験がなく、本課題開始と同時に飼育環境の構築を開始したが、安定した条件を確立するのにやや時間を要してしまったことも一因である。この項目に関しては、残念ながら当初計画より進捗がやや遅れている。 以上から、本年度計画していた項目のおおむねについて順調に進展したものの、一部の重要な研究項目で当初計画より進捗がやや遅れていることから、本課題は現在のところ当初の計画よりやや遅れていると自己評価する。 なお、本年度の研究実施において味覚受容体変異メダカの死亡率・寿命についての情報が得られたこと、ある程度のメダカ飼育環境の構築ができており、環境を改善した新システム導入について情報収集と準備を進めていること、すでに変異メダカの追加作製を進めていることから、課題全体としては深刻な遅れがなく進めていけるであろうと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず今年度達成できなかった変異メダカ系統作製を引き続き進める。これにあたっては、当初drR系統のみで実験を実施していたところ、drRより生存率の高いCab系統も対象として変異メダカ作製を進めている。また、より生存率を上げるためにメダカ飼育環境の改善や新たなシステムの導入も検討している。また、生存率の低さをカバーするため、gRNAのインジェクション実験についてもさらに規模を大きくして実施することも検討している。変異系統が作製できれば、どの変異が発生異常を引き起こすのかを同定し、この変異メダカを用いて以降の実験に進める。 変異メダカ系統を作製できれば、生殖細胞系列や核をGFPで可視化した遺伝子改変メダカ系統を利用して、卵形成や初期卵割の過程を観察可能な遺伝子改変メダカを作製する。得られたメダカを用いて、ライブイメージングにより卵形成や初期卵割の過程を観察する。 また、これらの実験と並行し、味覚受容体プロモーター領域にGFPをノックインしたメダカをCRISPR/Cas9法により作製し、卵形成や受精、初期卵割の各段階における味覚受容体発現細胞の同定を行う。またライブイメージングにて発現細胞のダイナミクスも解析する。 さらに、他の味覚受容体遺伝子のノックアウトや、受精卵に対し各種化学物質、アンチセンスモルフォリノオリゴ、抗体などのインジェクション実験を実施し、他にどのような要因が発生異常を引き起こすかを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた要因として最も大きいのは物品費である。この主な理由として、①当初メダカ飼育環境として流水飼育でのシステムを計画し予算計上していたが、設置スペース確保などの問題があり、できる限り早い飼育環境準備を優先して、既存のインキュベータを利用した止水飼育のシステムを構築したため、計画していたよりも使用額が低額となった、②当初変異メダカ系統作製に伴うジェノタイピングに必要な分子生物学実験費を計上していたが、変異メダカ系統作製に遅れが生じ、予定していたジェノタイピング実験の一部を実施しなかったため、試薬購入費などが予定よりも低額となった、などが挙げられる。これらについては、①H30年度に流水飼育システム構築を予定していること、②当初H29年度に予定していた変異メダカ系統作製がH30年度にずれ込んだため、余剰が生じた分子生物学実験費についてもH30年度に使用見込みであることなどの状況より、主にH30年度に物品費として使用する計画である。
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