発生時に異常が見られた表現型の再現実験として、CRISPR/Cas9法で味覚受容体遺伝子遺伝子編集を行ったメダカを交配し、フレームシフト変異による味覚受容体ホモノックアウトメダカ系統の作製を試みた。しかし、ヘテロ接合型で変異を持つメダカ同士の交配によって得られたメダカのジェノタイピングを実施したが、解析した限りにおいて、ホモ接合型で変異が導入された個体は見られなかった。このことから、ホモ接合型変異を持つ個体は、受精・孵化あるいはジェノタイピングを実施した3~4ヶ月齢までのいずれかの段階で死亡している可能性が示唆された。一方、ヘテロ接合型で変異を持つ個体については、発生やその後の成育および成育後の個体の行動などに、顕著な表現型は確認できなかった。 そこで、発生時に異常がみられた受精卵を産んだメスメダカで確認された変異味覚受容体では、どの程度受容体機能が残存していたかを確認するため、当該メダカに導入された変異と同一の変異を導入した味覚受容体を組換え発現し、細胞外リガンド結合領域(LBD)の構造形成能、全長受容体の膜移行能、および味物質応答能を確認した。その結果、当該メダカで観察された変異のうち、翻訳停止変異体は、LBDの折りたたみ不全が起こっており、全長受容体が膜移行しないことが明らかとなった。一方、インフレーム変異体では、LBDの折りたたみ不全が起こっており、全長受容体は膜移行するものの、リガンド応答能が大きく減弱していることが明らかとなった。以上の結果から、当該メダカにおいて味覚受容体機能が大幅に減弱していたことにより、当該メダカが産卵した受精卵の発生時に異常が起こった可能性が示唆された。
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