研究課題/領域番号 |
17K19358
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
小保方 潤一 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (50185667)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 遺伝子転移 / 転写活性化 / プロモーター新生 / DNA修復 / エピジェネティックス / クロマチン |
研究実績の概要 |
ゲノム変動がもたらすトランスクリプト-ムの変化は、生物の進化や多様化を生み出す根本要因である。しかし、ゲノムDNAの変化が転写領域の新生をひきおこすメカニズムは、まだ充分には解明されていない。筆者等は、植物の染色体に外来遺伝子断片が挿入されると、挿入部位の性質(DNA配列やクロマチン状態など)とは全く無関係に、個々の挿入イベント(挿入反応)に対して一定の割合で挿入された配列の転写が活性化される現象を発見した。この現象の分子的な背景を解明し、ゲノムの変動とプロモーター活性の出現との間をつなぐ新しい原理を見出すことが、本研究の究極的な目的である。 染色体に外来DNA断片が挿入される際には、必ず染色体DNAの切断・修復と、それに伴う局所的なクロマチンのリモデリングが生じる。そこで筆者等は、DNA修復過程でのエピジェネティック状態の変化が、一定の頻度で転写活性化型のクロマチン状態としてたまたま固定され、それが上記の転写活性化を引き起こすのではないかと考えた。この仮説が正しければ、ゲノム変動とトランスクリプトーム変動との間を繋ぐ根本理解に一石を投じることになる。本研究の目的は、この作業仮説の妥当性を実験的に検討ことであり、そのため、DNA修復反応にかかわる様々な変異体植物を用いて、上記の転写活性化現象がどのように変化するのかを比較検討することである。 初年度は、様々な変異植物系統の入手と増殖、形質の検討、それらを供する検出実験系の整備などを進めた。その結果、DNA/クロマチンの修復プロセスに関与するヒストンアセチル基転移酵素(HAT)や脱アセチル化酵素(HDAC)の変異体などについては、当初計画に沿って実験準備が順調に進んでいるが、一方、変異株の性質の検討などから、実験系の細部や年度計画などについては若干の修正が必要になった部分もあり、それらについてはさらに検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の実験上の要点は、様々な遺伝子変異植物系統をバックグラウンドとして、その核ゲノムにプロモーターを持たないレポーター遺伝子コンストラクトをランダムに導入し、得られた形質転換植物群の中でのレポーターの転写状態を包括的に解析することである。この解析系のパイロット実験は、野性型の植物培養細胞を用いて行っており、実績として良好な結果が得られていたが、本研究の着手にあたって野性型の植物体を用いて同様の形質転換実験行い、外来遺伝子の導入状態を精査したところ、コンストラクト導入部位とその近傍で、予想以上にDNAの欠失、重複、逆位などが生じていた。これらの変異は個々の形質転換個体毎にバラバラに生じるため、導入遺伝子の転写状態を比較する上で、実験結果の解釈を難しくする。このような培養細胞と植物体における導入コンストラクトの安定性の違いは、後者が有性生殖を経ることに関係があるのではないかと推察している。 また、DNA修復に関わる変異体系統の中には植物体の生育があまり良くないものも含まれており、解析に必要な数の形質転換植物が得られるかどうか、変異系統毎に慎重な検討が必要であることも示唆された。 初年度の研究では、これらの諸問題について慎重に検討を進めた結果、当初予定より研究全体の進行がやや遅れる結果になった。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、当初計画に従って研究を推進し、形質評価と充分量の種子が確保された変異系統植物から、レポーターコンストラクトの導入と、導入レポーター遺伝子の包括的な発現解析に進む。しかし、上欄で述べたような問題点も示唆されているので、バックアップとして、植物体だけではなく、培養細胞を用いた実験についても、並行して準備作業を進める。ただし、その場合は実験に使える遺伝子変異系統がどこにも存在しないため、野性型の培養細胞にDNA修復関連遺伝子群に対するRNAi を導入して、新たに遺伝子発現抑制株を作成しなければならない。それらの抑制株を確立した上で、それらの株をバックグラウンドにして、レポーター遺伝子の導入と発現解析を進める事になる。結果として、当初予定よりも全体の作業量が大幅に増大するため、研究全体の進捗をみながら最も効率のよい研究の進め方を検討し、所定の期間内に研究成果が得られるよう工夫したい。 本研究の目的は、DNA/クロマチンの修復反応と導入レポーターの転写活性化との関係を実験的に検討することである。そこで、上述した遺伝子変異体を用いた本来の解析を側面からサポートする意味で、新たに、DNA/クロマチン修復に対する各種阻害剤を用いた実験についても検討を進めたい。このような実験は当初は予定していなかったが、基本的には、野性型培養細胞に阻害剤を作用させた条件でレポーター遺伝子の導入と発現解析を進めればよいため、得られる結論が限定的であるとはいえ、個々の実験に要する時間を大幅に短縮できると予想される。上述したように研究全体の進捗状況を見ながら、このような新しいアプローチについても平行して検討を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の研究の進捗が当初予定よりやや遅れており、それに関係する物品費等の支出を一部、翌年度にまわすことにした。
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