本研究は、分裂期における細胞の遺伝的fidelityが染色体のいかなる力学特性によって保証されているかを解明することを目的とした。染色体に生じる数的・構造的異常は細胞のがん化と関連する重要な形質である。これらの異常の多くは染色体に作用するメカニカルな力と関係していると考えられているが、力が染色体の構造と機能にいかなる帰結をもたらすかについての定量的知見は乏しかった。本研究は、単離精製した分裂期染色体の特定部位に対して制御された力を直接作用させることができる顕微鏡システムを開発し、染色体構造の変形ダイナミクスを蛍光顕微解析することでその力学応答特性を解析した。具体的には、ヒト培養細胞(HeLa株、HCT116株)から遠心破砕法によって精製した染色体の動原体部位をガラス製マイクロニードルの力計測プローブで捕捉し、伸長力を作用させたときの動原体の位置変化と染色体の変形を蛍光ライブイメージングにより捉えることに成功した。その結果、動原体近傍の染色体構造は伸長力に対して軟らかく弾性的で、動原体に与えた伸張力に応じて局所変形を起こすが、その変形は力の消失に伴って迅速に回復されることが示された。その一方で、動原体からより遠位の染色体碗部等は動原体に作用させた力に対して堅牢であり、より小さな変形を生じた。また、染色体の腕部に対する直接のマイクロマニピュレーションによって力の作用を調べることにも成功した。
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