研究課題/領域番号 |
17K19369
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
西野 敦雄 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (50343116)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 筋収縮 / キラリティー / 遊泳運動 / 細胞骨格 / 運動解析 |
研究実績の概要 |
動物が示す運動の多くにはキラリティーが見られ,また生体高分子もふつうキラリティーをもつが,細胞がキラルな構造体/運動体であるとの認識は一般的ではない。我々は,海産動物ホヤのオタマジャクシ幼生の運動機構を研究する中で,(1)ホヤ幼生が右ネジ方向に螺旋を描きながら泳ぎ上がる性質をもつこと,またそのホヤ幼生の尾部の筋肉細胞は左右対称に配置されているが,(2)細胞内部の筋原線維は左右いずれにおいても左螺旋のネジレを持つことを見出した。本研究は,この筋細胞の「螺旋性ができる仕組み」を明らかにするとともに,ねじれた筋原線維が「個体運動レベルの螺旋性を生み出す仕組み」を解明することを目的として取り組んでいる。 平成30年度は,29年度までの結果を踏まえ,中期尾芽胚期から後期尾芽胚期にかけて出来上がる螺旋性をもったアクチン繊維の束が,細胞質型アクチンから筋肉型アクチンへの切り替えによって起こる可能性を検証した。筋肉型アクチン遺伝子のコーディング領域に成熟の速いタイプの緑色蛍光タンパク質の遺伝子を組み込み,この融合遺伝子を受精卵に導入して筋肉型アクチンタンパク質の発現時期を調べたところ,神経胚期にはすでに発現が見られた。このことから,尾芽胚期初期から見られる予定筋肉細胞表層に存在するアクチン繊維のメッシュワークは,既に発現していた筋肉型アクチンから構成されるものであり,その束化はアイソフォームのスイッチングによるものではないことが示された。 さらに,中期尾芽胚期から阻害剤ライブラリを処理することにより,このネジレた筋原線維形成を制御するシグナル因子の探索を行ったところ,いくつかの候補因子を見出すことに成功した。ネジレた走行をもった筋原線維の形成に関与する因子をこれらの候補からさらに確定し,その作用点を明らかにすることができる。平成30年度は,そのきっかけを確かに得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度明らかにした筋原線維形成の時間経過をもとにして,本年度はその形成機構について計画通りに解析を進めることができた。阻害剤ライブラリの処理から螺旋型の筋原線維形成に関係するシグナル経路の候補を見いだせたのは大きい進展であった。生きた胚における筋原線維の可視化も可能になり,またホヤ幼生の運動解析に関しても,個体の運動ばかりでなく,周囲の流体の運動を同時に高速度カメラで可視化することができるようになった。これらの分析はこれから行うものであるが,興味深い観察像が多数既に得られており,これらについては当初の予定を上回る成果といえる。定量的な分析を順調に進められれば,当初計画を上回る知見を得ることができると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
得られた成果のうち,螺旋型遊泳パターンとネジレた筋原線維の形成プロセスに関しては論文としてまとめる。平成31年度は,阻害剤ライブラリでのスクリーニングにかかった候補因子について,さらに分析を進めて効果を明らかにする。ターゲットとなる因子のクローニングや発現阻害実験を試みる。また,二方向からホヤ幼生の運動を高速度カメラで追跡する実験に本格的に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に予定していた阻害剤スクリーニングに当初計画よりかからなかった。また学会参加等の旅費を他の資金から支出することができたので,その分も当初予定分よりかからなかった。論文投稿にかかる費用を平成31年度に使用する計画を立てている。また,分析にかかるPCが大規模な動画データ処理に追い付かなくなって来ているので,小型のワークステーションを導入することを計画している。
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