研究課題
休眠制御の中心的役割を果たす脳間部のインスリン産生細胞(Insulin-like peptide producing cells: IPCs)に着目し、休眠誘導条件がどのようにこれらの細胞に作用するかを調べた。生きた個体の脳を露出させ、露出部分のみを生理的食塩水で灌流しながら、whole cell patch-clampにて電気活動を記録する方法を確立した。IPCにはDilp3-GAL4によって駆動されたGFP発現が生じているため、その蛍光をランドマークとして電極を配置した。これらのニューロンは-50mVより負の値を示す静止膜電位を持ち、外向き通電刺激によってオーバーシュートする活動電位を発生させた。休眠しない条件である長日、高温、摂食条件で飼育したものを用い、灌流液の温度を25℃から10℃に急冷すると、静止膜電位のゆっくりとした脱分極が生じ、それに重畳して活動電位を発生させた。これに対し、成虫羽化後に1週間にわたって卵巣休眠誘導条件である低温、短日、飢餓に置いたものでは、同様の急性的寒冷刺激を与えてもごくわずかの脱分極反応を示すのみであり、さらに活動電位の発生もほとんど認められなかった。このことから、脳のIPCそのものが環境条件の応じてその生理的特性を変化させ、インスリンやその他の物質の分泌活動の変化が生じることが考えられた。それを通じて、休眠の誘導や離脱が起こる可能性があると考えられる。一方IPCは、光照射に対してはわずかな過分極応答を示したが、この光への応答は外液中に加えたtetrodotoxinによって消失することから、シナプス性に発生しているものと思われた。
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