研究課題
ネナシカズラ属100種以上の植物は根は葉を分化させず、茎のみを分化させ、それで宿主に巻き付き、吸器という寄生器官を発生させて自身の維管束を宿主の維管束に連結し、水と養分を宿主の維管束より調達しながら、開花、結実して種子を土壌に散布して繁殖する。茎寄生のメカニズムは、古くより注目されながら今尚、未解明の重要な課題である。研究代表者はこれまでにアメリカネナシカズラを実験室内で継代維持して、シロイヌナズナやタバコに寄生させる実験系を確立し、全ゲノムデータベースを整備し、吸器組織形成過程のRNAseq解析を行い、研究リソースを整備してきた。本研究の目的は、この独自のリソースを活用して、アメリカネナシカズラが宿主と交信しながら吸器を分化させて栄養成長・生殖成長を進める一連の過程を分子解剖することである。そのために1.宿主に巻きついた後の吸器形成過程、2.吸器による宿主との維管束連結、3.寄生成立後の開花のタイミングの制御、の三つの過程に着目して、それぞれの研究項目について、宿主/寄生種間の交信に着目して解析を進めた。その結果、1の研究項目については、宿主に巻ききつくことにより発生する力学的応力がKRP1やCCS52A1、CYCA2など発現の制御を通して二段階の核内倍加を惹起すること、また、そのうちの2回目の核内倍加は、宿主が生産するエチレンを介したCYCA2の発現の減少が促進的に働き、吸器の宿主への侵入を促していることを明らかにした(論文投稿中)。2の研究項目についてはRNAseqデータのクラスタリング解析により、吸器形成に関わる宿主と寄生主の両者の維管束誘導に関する候補因子の検索を進めた。3の研究項目についてはアメリカネナシカズラの2種のFT、CcFT1, CcFT2を同定し、CcFT2が開花の促進因子として、CcFT1が抑制因子として働くことを示す結果を得た。
1: 当初の計画以上に進展している
1の研究項目については、宿主に巻きつくことにより発生する力学的応力がKRP1やCCS52A1、CYCA2など発現の制御を通して二段階の核内倍加を惹起すること、また、そのうちの2回目の核内倍加は、宿主が生産するエチレンを介したCYCA2の発現の減少が促進的に働き、吸器の宿主への侵入を促していることを明らかにした。これにより、寄生主であるアメリカネナシカズラが宿主に巻きつくことにより発生する力学的な応力が、寄生主内では、二回の核内倍加を誘導すると同時に、宿主内では、エチレン合成酵素の誘導を介して、寄生主内でのCYCA2の発現を抑制することにより、2回目の核内倍加を促進し、寄生効率を高めている戦略を明らかにすることができた。2の研究項目についてはRNAseqデータのクラスタリング解析により、吸器形成に関わる宿主と寄生主の両者の維管束誘導に関する候補因子の検索を進めると同時に、それらの機能をin vitroの系で検証するための実験系の構築をほぼ終了し、この方法を用いることにより、宿主であるシロイヌナズナと寄生主であるアメリカネナシカズラの両者の因子の相互作用の解明が期待できる。3の研究項目についてはアメリカネナシカズラの2種のFT、CcFT1, CcFT2を同定し、CcFT1がシロイヌナズナの開花の促進機能を持たないこと、CcFT2が開花の促進因子としての機能を持つこと、をそれぞれシロイヌナズナの形質転換体を用いて実証した。また、CcFT1とCcFT2を過剰に発現させたタバコを宿主として、アメリカネナシカズラを寄生させる実験系を確立し、機能の実証を進めつつある。
引き続き仮説1-3の検証のための研究項目1、2、3を進めると同時に、ネナシカズラ特異的遺伝子の機能解析を開始し、茎寄生戦略の基盤となるキー因子の同定を目指す。 この二つのアプローチの成果を統合し、茎寄生過程のキーとなる寄生主/宿主の分子間交信過程を分子解剖し、茎寄生植物が進化させてきた「茎寄生戦略の構造」の解明を目指す。
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