研究課題
茎寄生植物であるアメリカネナシカズラ(Cuscuta campestris)の茎は、宿主の茎に巻きついた後、茎の皮層組織内に分裂組織を新生させる。分裂組織の最外層(背軸側)の細胞列(先端細胞)は探索糸へと分化し、伸長して宿主の表皮を突破して、宿主の木部に達する。探索糸は宿主維管束内で管状要素に分化し、最終的に宿主道管に連結し、寄生が成立する。吸器発生の組織学的側面に関する研究は多いが、吸器の新生や、先端細胞の管状要素への分化、異種間の道管連結になどの過程については、その分子機構は全く不明である。今年度は、吸器内での道管分化に関与する異種細胞間の相互作用の解明をめざした。そのために、シロイヌナズナのロゼット葉を宿主植物組織として用いて、C. campestrisの吸器をin vitroで誘導する実験系を開発した。このin vitro誘導系を用いて、吸器の先端細胞が道管に分化するためには、宿主組織との相互作用が必要であることを明らかにした。次に、C. campestrisにおける宿主依存的な道管分化誘導の分子メカニズムの解明を目指し、in vitro誘導系による、道管誘導過程のサンプルを調整し、それを用いたトランスクリプトーム解析を行った。その結果、維管束細胞の発生・増殖に関与する遺伝子のオルソログは、宿主組織が存在しない場合でも発現が上昇するのに対し、木部道管細胞の分化に必要な遺伝子のオルソログは、いくつかの血管細胞が伸長して宿主木部に接触した後にのみ発現が上昇することを明らかにした。また、無傷の宿主植物に寄生したC. campestrisの葉茎の組織についてもトランスクリプトーム解析を行い、同様の結果を得た。これらの結果は、非自律的な木部道管分化の制御に宿主由来のシグナルが関与していることを強く示唆している。
2: おおむね順調に進展している
平成31年4月に東北大学より神奈川大学に異動し、5月より研究室の整備を進めたが、肝心の実験植物の育成施設の整備がなかなか進まなかったため、実験開始が遅れたものの、シロイヌナズナのロゼット葉を宿主植物組織として用いて、C. campestrisの吸器をin vitroで誘導する実験系を開発したことにより、解析が一気に進み、自律的な木部道管分化の制御に宿主由来のシグナルが関与していることを強く示唆していることを明らかにできた。この結果は、維管束分化に関するこれまでの発生生物学に異種間のシグナルという新しい研究領域を拓く点で意義のあるものと考えられる。
今年度の研究により、アメリカネナシカズラの非自律的な木部道管分化の制御に宿主由来のシグナルが関与していることを強く示唆する結果を得たが、その実態はまだ不明である。その同定が今後のもっとも重要な課題である。もう一つの未解明の課題は、寄生植物であるアメリカネナシカズラの茎が、宿主の茎に巻きついた後、茎の皮層組織内に分裂組織を新生させ、分裂組織の最外層も先端細胞が探索糸へと分化し、伸長して宿主の表皮を突破するまでの探索糸の伸長を誘導するメカニズムである。次年度にはこれらの課題に取り組む予定である。
研究代表者が4月に東北大学より神奈川大学に異動したことに伴う研究施設の移転が大幅に遅れた。更に、肝心の植物育成施設の整備が終わったのが令和2年2月であったため、研究計画を大幅に遅らせた。その結果、予定していた人件費および物品費は、すべて次年度に繰り越さざるを得なくなった。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件)
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