研究実績の概要 |
哺乳動物の性分化は、性的に未分化な胎児性腺の支持細胞が、Y染色体上の精巣決定遺伝子Sryの発現により雄型のセルトリ細胞に、無い場合は雌型の顆粒膜細胞へと分化することで開始される。発生過程で決定した支持細胞の性は、出生後もそのまま安定して発現するわけではなく、雄に維持されなければ雌になり、雌に維持されなければ雄になるという、2つのいずれかの性を担保する支持細胞自律的な機構が備わっていると考えられている。しかしながら申請者が作出した組織特異的脂質代謝酵素欠損マウスは、顆粒膜細胞以外の細胞もしくは一部の顆粒膜細胞でのみ遺伝子欠損されている可能性が高いにもかかわらず、卵胞の顆粒膜細胞層にセルトリ様細胞が出現するという興味深い知見を得ている。この申請者独自のリソースを用いて、本研究では、卵巣の性を制御する新たな細胞を見出す。 本年度はまず、昨年度において見出されたCreリコンビナーゼ発現細胞について、免疫組織化学的解析を行った。その結果、コントロールマウスではCreリコンビナーゼ発現細胞は生後7日から卵胞に出現し、その後徐々に減少して生後2か月にはほぼ消失することを見出した。一方組織特異的脂質代謝酵素欠損マウスでは、コントロールマウスのような減少は認められず、2ヵ月以降も残存した。脂質解析の結果、細胞内シグナル伝達脂質であるPI(3,4,5)P3の量が上昇しており、PI(3,4,5)P3のターゲット分子であるAktのリン酸化の亢進が認められた。一般的にAktの活性化は細胞の生存を導く。現在、組織特異的脂質代謝酵素欠損マウスとAkt欠損マウスとを交配し、Aktの活性化がセルトリ様細胞の出現を導くか否か解析を進めている。
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