研究課題/領域番号 |
17K19379
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
尾田 正二 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (50266714)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | メダカ / 群れ / 遊泳軌跡 / 数値化 / シンクロ率 |
研究実績の概要 |
お互いに初対面となるHd-rRメダカ(野生型)の成魚8個体をドーナツ型水槽に入れ、その自由な遊泳行動をビデオ撮影し、UMAtracker (http://ymnk13.github.io/UMATracker/) を用いて各個体の遊泳軌跡(3分間)をビデオレート(30 Hz)で数値化した。その後一つの水槽に同居させて毎日遊泳行動を観察したところ、同居開始直後は各個体が別々に遊泳し群れ行動は認められなかったが、同居開始後3日目以降には明瞭な群れ行動を示すように変化した。群れ行動を評価する数値指標を得るために、まず、平面に投影した際の個体間のユークリッド距離と方向統計学的密度を求め、ともに群れ行動が顕著となるとともに増大することを確認した。群れ行動をとる個体群ではその遊泳行動の方向が同じとなる傾向が強い。そこで次に、各個体の遊泳方向の瞬間瞬間の平行性を評価したところ、同居開始後の群れ行動の発現・発達に伴い行動方向の平行性は増大し、やはり同居開始後3日目以降にはすべての個体の遊泳方向が安定的に一致するように変化した。群れ行動を発現しない ソマトラクチン遺伝子欠損系統(ci)メダカの成魚たちにおいては同居開始後もこれらの指標が変化することはなく、これらの指標が群れ行動の指標として有効であることを確認した。 群れ行動を示すHd-rRメダカたちの遊泳の世界線は群れ行動の発現・発達に伴ってきれいに一致する。すなわち、瞬間瞬間の数値指標の集合を評価する上述の指標は、メダカの実際の群れ行動の重要な特性である時間軸に沿ったシークエンスとしての性質を評価していないことから、明らかに不完全な指標である。そこで、遊泳速度の同期性(シンクロ率と呼称する)を定義した。Hd-rRメダカは同居開始後3日目までにシンクロ率が上昇するのに対して、ci メダカはシンクロ率の上昇を見せなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、初対面のメダカが群れを形成するプロセスを記録・数値化し、可視化する研究手法を開発できた。群れ行動を評価するために複数の数値指標を考案し、その有効性を確認するに至れた。特に、メダカ個体の遊泳速度の同期生を評価する数値指標としてシンクロ率を開発できたことは、従来は研究対象とされてこなかった遊泳行動の時間的シークエンスとしての特性を解析し評価することに道を開いたものとして評価できる。また、本研究において、群れ行動を発現しないネガティブコントロールとなる ci メダカの解析も実施し、やはり群れないことを観察し数値化できた。モデルによる群れ行動のシミュレーションではなく、実際の群れ行動の数値化による群れ行動の特徴抽出とその揺らぎの解析が可能となった。これにより、個々の個体が状況判断しながら行動を調節し発現する動物個体の行動発現の精緻さと複雑さを、我々がより明確に認識することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従い、群れ行動の発現前後においてHd-rRメダカ成魚の脳の連続切片を作製し、群れ行動の発現に伴う構造的変化の有無を検証する。また、群れ行動の発現前後においてHd-rRメダカ成魚の脳よりRNAを抽出してトランスクリプトーム解析を行い、群れ行動の発現に伴う遺伝子発現パターンの変化の有無を検証する。 また、連携研究者による提案をもとに、時間軸に沿うシークエンスとして遊泳行動を捉えた解析を推進するために時系列解析の手法を適用する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、高額な数値化ソフトウェアを当該年度に導入予定していたが、研究計画の進展に伴い現有のソフトウェアの活用によってより安価に研究計画の実施が可能であることが判明し、導入予定であったソフトウェアの導入が不要であることが明らかになったため、当該助成金が生じた。 翌年度では脳の連続切片の作製、トランスクリプトーム解析の実施を計画しており、それらを外注するための高額の経費が発生することが見込まれる状況において、綿密かつ確実に研究計画を実施するためにできるだけ多数のサンプルを解析することが望ましいため、当該助成金と合わせて翌年度に使用する計画である。
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