研究課題/領域番号 |
17K19379
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
尾田 正二 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (50266714)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | メダカ / 群れ / ソマトラクチン / ci |
研究実績の概要 |
メダカは群れ(school)を形成する。お互いに初対面となるHd-rRメダカ(野生型)の成魚8個体をドーナツ型水槽に移して遊泳行動を観察すると、同居開始直後は各個体が別々に遊泳し群れ行動は認められないが、同居開始後3日目以降には明瞭な群れ行動を示すように変化した。一方、ソマトラクチンを欠損する ci メダカは同居開始後3日目以降に至っても個々の遊泳行動がシンクロすることがなく、群れを形成しない。同居開始後3日のうちにHd-rRメダカ(野生型)ではなんらかの変化が生じて群れを形成するように行動が変化する一方、ソマトラクチンを欠損する ci メダカではそのような変化が生じないために群れを形成するに至らないものと推測できる。本研究の本年度の計画ではci メダカをネガティブコントロールと受け止めることによって、Hd-rRメダカ(野生型)が群れを形成するに至る上での脳神経構造および遺伝子発現の変化を検証することを目指した。同居開始後3日のうちに起こった群れ形成の原因となる変化として、脳神経回路の変化および脳神経における遺伝子発現の変化が考えられる。脳神経における遺伝子発現変化としては、特定の遺伝子の発現誘導もしくは遺伝子発現のパターンの変化が想定される。そこで、本年度は、群れを形成するように変化する期間において、脳の神経核の構築の変動の有無を検証することを目指し、メダカ成魚の脳の連続組織切片の作製と連続切片から3D像を再構築することを目指した。また、群れ形成期間の前後において脳のトランスクリプトーム解析を実施し、群れ行動の発現に関連する遺伝子発現を検索することを目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、群れを形成するように変化する期間において、脳の神経核の構築の変動の有無を検証することを目的とし、メダカ成魚の脳の連続組織切片の作製と連続切片から3D像を再構築することを目指した。また、群れ形成期間の前後において脳のトランスクリプトーム解析を実施し、群れ行動の発現に関連する遺伝子発現を検索することを計画した。 まず、群れ形成に伴う脳神経の組織構造変化の有無を検証するために、メダカ成魚の脳の連続組織切片を作製して3D像を再構築するための技術開発を進めた。MS222を用いて麻酔した後にDavidson氏固定液を使用してメダカ成魚を全身丸ごと化学固定してパラフィンに包埋し、脳を摘出することなく頭部ごと組織切片とする方法と、固定後に脳を摘出してパラフィン包埋する方法、樹脂包埋する方法を試行し比較した。しかし、どの手法においても切片を一枚も欠損することなく連続切片を作製する技術の確立に時間を要した。また、Osirix、Image J等の種々の市販・フリーソフトウェアを試用して脳組織の核構造を3D化することを試みたが神経核の構造を明晰に比較できる解像度の3D化像を構築できるに至っておらず、さらなる手法の改良を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
群れを形成するように変化する期間において、脳の神経核の構築の変動の有無を検証することを目指し、メダカ成魚の脳の連続組織切片の作製と連続切片から3D像を再構築する手法の完成を急ぐ。脳切片像を3D再構築する際にアンカーとなるべき組織構造があることが脳切片像のアライメントに便利であることから、脳を摘出することなく頭部全体を切片化する手法に集中する。Osirix を使用して3D画像化することがもっとも高品質の3D再構築画像を取得できるものと期待できる。これら手法を確立した上で、同居前、同居1日目、同居3日目にHd-rRメダカ(野生型)および ci 系統メダカの脳を3D再構築画像し、群れ形成に伴う脳神経核構造の変化を探索する。 また、群れ形成期間の前後において脳のトランスクリプトーム解析を実施し、群れ行動の発現に関連する遺伝子発現変動を検索する。同居前、同居1日目、同居3日目にHd-rRメダカ(野生型)および ci 系統メダカ各5匹より、麻酔後に頭部を単離し、ドライアイスブロック間で瞬間冷凍した後にRNAを抽出し、5匹分をまとめてトランスクリプトーム解析を外注する。得られるトランスクリプトームを解析し、群れ行動の発現に関連する遺伝子発現変動を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
メダカ成魚の脳の連続組織切片の作製と連続切片から3D像を再構築する手法の開発に時間を要し、群れ形成期間の前後において脳のトランスクリプトーム解析の実施が次年度にずれこんだため。
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