研究課題/領域番号 |
17K19389
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中川 聡 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70435832)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 共生微生物 / 無脊椎動物 / 沿岸域 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、海洋性無脊椎動物の体液中に生息する特異な微生物群の生理機能を解明することにある。具体的には、主に北海道の沿岸域に生息するヒトデを対象とし、体液特異微生物群の生態・生理機能を分子レベルで多元的に解明する。即ち、天然・飼育環境下において①体液中の微生物群集構造、宿主と微生物の②発現遺伝子、③代謝物質の3項目時系列解析を行う。本研究は、海洋性無脊椎動物および微生物の生理生態・進化学などの純粋研究分野や、水産学や環境保全学などの応用研究分野を変革し発展させる潜在性を持つ。平成29年度は上記の解析項目のうち、主に①体液中の微生物群集構造と、②宿主と微生物の発現遺伝子について研究をすすめた。これまでの研究において予備実験を進めてきた北海道東部でマヒトデを採取し、計50個体を6種類の条件(温度や塩分濃度が異なる)下において一定期間飼育した。フィールドで調整した体液および飼育個体から経時的にサンプリングした体液を用いて、様々な培養条件を用いた培養・顕微鏡観察(特にヘリコバクター近縁細菌やThiotrichales目細菌といった、過去にマヒトデ体液に特異的かつ優占して検出された未知の微生物群を対象としたFISH)に加え、計34試料については直接抽出したDNAを用いて16S rRNA遺伝子のアンプリコン解析(次世代シーケンサーを用いたディープシーケンシングによる微生物群集構造解析)を実施した。加えて、選抜した一部の試料からRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析(宿主および微生物における発現遺伝子の解析)を実施し、宿主微生物間相互作用や協調的な環境応答を担う遺伝子群の同定を進めている。なお、以上に関連する成果の一部は複数の学会や国際誌等で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種々の条件を用いた飼育実験により、マヒトデの体液中に生息する微生物群の経時変化を解析することに成功している。トランスクリプトーム解析において、夏期に調整したRNAの量および質が悪かったが、方法を工夫して冬期に再度フィールドにて試料調整したところ、解析に十分なRNAを得ることに成功した。これらは今後種々の解析において基盤的役割を果たすと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、主にトランスクリプトーム解析で取得しつつあるデータの解析を進めるとともに、その結果を利用しながらメタボローム解析を実施する。トランスクリプトーム解析においては、これまでの研究で取得されつつあるメタゲノムデータを用いながら、得られたデータをアセンブル、カテゴリー分類や機能アノテーションを行う。各ライブラリにおける発現遺伝子の出現頻度を比較するのみでなく、各(微)生物における発現様式に有意な協調性が見られるものを選択することにより、各環境(ストレス)条件下における生物間相互作用に特異的な発現様式を示す遺伝子群を同定することが可能となる。加えて、代謝物質の網羅解析を行い、発現遺伝子および代謝物質時系列データを解析することにより、各飼育条件で発揮される宿主微生物間相互作用を担う遺伝子・代謝経路を同定する。本研究では、各環境条件下における各代謝物質の増減を見るのみでなく、生物間の動態に相関があるものを選択することにより、宿主微生物間の相互作用や環境応答を担う代謝物質を同定する。さらに、個々の遺伝子・代謝物質が各生物および相互作用に及ぼす影響や制御関係を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は複数の飼育個体を用いた発現遺伝子の網羅解析を実施予定であったが、試料調整において上述した困難が生じたため、その費用を次年度使用額とした。
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