本研究の目的は、海洋性無脊椎動物の体液中に生息する特異な微生物群の生理機能を解明することにある。具体的には、主に北海道の沿岸域に生息するヒトデを対象とし、体液特異微生物群の生態・生理機能を分子レベルで多元的に解明する。即ち、天然・飼育環境下において①体液中の微生物群集構造、宿主と微生物の②発現遺伝子、③代謝物質の3項目時系列解析を行う。本研究は、海洋性無脊椎動物および微生物の生理生態・進化学などの純粋研究分野や、水産学や環境保全学などの応用研究分野を変革し発展させる潜在性を有している。 平成30年度は前年度に開始したマヒトデの飼育実験・解析を継続し、上記解析項目を実施した。加えて、本年度も前年度と同サイトにおいてマヒトデを採取し、約40個体について様々な条件下で一定期間の飼育実験を行うことに成功した(再現性および実験系評価のため)。前年度と同様に、フィールドで調整した体液および飼育個体から経時的にサンプリングした体液を用いて、顕微鏡観察(特にヘリコバクター近縁細菌やThiotrichales目細菌といった、これまでマヒトデ体液に特異的に優占することが確認された未知の微生物群を対象としたFISH)に加え、直接抽出したDNAを用いて16S rRNA遺伝子のアンプリコン解析(次世代シーケンサーを用いたディープシーケンシングによる微生物群集構造解析)を実施した。加えて、選抜した一部の試料からRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析(宿主および微生物における発現遺伝子の解析)を実施し、宿主微生物間相互作用や協調的な環境応答を担う遺伝子群の同定を進めている。なお、以上に関連する成果の一部は複数の学会や国際誌等で報告した。
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