野外の光環境下は不規則に大きく変動するが、それに対する植物の分子レベルの応答については不明であった。本研究では、自然環境下で自生するハクサンハタザオ(モデル植物であるシロイヌナズナの近縁種)を題材に、植物の光応答分子ネットワークが野外でどのように作動するかを明らかにすることを目指した。 まず、ハクサンハタザオが野外で経験する光環境について、研究分担者である工藤博士らのチームが実際の生育地点で測定した環境データ(4地点、2017年5月~2018年9月)を詳しく解析し、光強度が天気によって不規則に変動することを定量的に確かめた(概ね100倍程度の差)。次に、携帯型スペクトロメータを用いて、植物の光応答を引き起こす青、赤、遠赤色光成分が野外でどのように変動するかを測定し、それらが独立に変化するのではなく、ある制約のもとでのみ変動していることを明らかにした。 以上の結果を受け、野外でハクサンハタザオが経験する代表的な光条件を実験室内で再現し、近縁種であるシロイヌナズナを用いた光応答試験を行った。その結果、各波長成分は、対応する光受容体(青/クリプトクロム、遠赤/フィトクロムA、赤:遠赤色比/フィトクロムB)を活性化するのみならず、他の光応答に様々な抑制的影響を与えることが分かった。すなわち、野外の自然光に対する植物の光応答は、複数の光受容体により複雑に制御されることが示唆された。 研究の最終段階として、工藤博士らのチームが得た通年トランスクリプト―データ(毎週正午、特定植物(5個体)からサンプリング;2017年5月~2018年9月)の解析に着手した。その結果、光強度に相関して発現が変化する遺伝子が検出された。それの中には、既知の光応答遺伝子に加え、ストレス応答系遺伝子が数多く含まれていた。現在、その意義や制御機構に関する解析を進めている。
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