本年度は、実用化に向けた細胞音響システムの改良を行うとともに、これまでの研究により明らかになった遺伝子応答を基に音波による遺伝子操作システムの構築に取り組んだ。先行研究が存在しない挑戦であり、さまざまな試行錯誤を繰り返して問題の解決にあたり、一定の成果を得ることができた。 1.細胞音響システムの改良 前年度構築した振動トランスデューサーを用いた細胞音波照射法について、振動板の設計の最適化や、熱発生の抑制とコントロールのため、さまざまな試行を行い、機械特性に優れたPEEK樹脂製のカスタム設計した円形振動板を採用した。これにより、ステンレスと同等の音波発生効率を持ちつつ、熱発生は大幅に抑制することに成功し、システム(ハード面)において実用化への道筋を確立した。 2.音波応答遺伝子の探索と応答性の検証 網羅的遺伝子解析により、C2C12細胞においては筋・骨分化関連遺伝子が音波に応じた発現制御を示すことを見出した。更に、経時解析とさまざまな音波による比較解析を行い、これらの音波応答特性の詳細を明らかにした。また、これらの遺伝子のプロモーターに音波応答性がみられるかをプロモーターアッセイにより検証したところ、応答性は予想よりも低いものであった。現在、音波応答に必要な遺伝子領域をより多角的に明らかにする取り組みを進めるとともに、その他の音波応答遺伝子についてもその応答様式を明らかにすべく、さまざまな検証を進めている。 これらの成果から、本研究構想は着実に進展を見せている。実用化の実現については未だ具体的な段階ではないが、今後遺伝子応答機構の解明やシステムの最適化を進めることでこれを達成すべく、挑戦を進めていきたい。
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